なぜ楽天は異例の「GM兼監督」に舵を切ったか? 歴史が浅いからこその「チャレンジ」

会見に臨んだ楽天・石井一久GM【写真提供:楽天野球団】

「批判も多いが、新しいスタイルにチャレンジしていきたい」と立花球団社長

楽天は12日、石井一久GMが来季監督に就任することを発表した。編成部門トップのGMと現場の監督を兼任するのは極めて異例の人事。どこからこの発想が生まれたのか。そして、成算はどれだけあるのだろうか。

「“取締役GM兼監督”が正式名称になるかと思います」。オンライン会見に臨んだ立花陽三球団社長が、いみじくもそう語った。経営サイドの役員と、編成トップと、現場監督を兼ねるというのだから重職である。立花社長は「短期的にも、中長期的にもチームを強くするために、全てにおいて彼が必要。大活躍してほしい」と期待を込めた。

「異例ではあるが、われわれは歴史が浅い球団なので、課題も批判も多い。立ち止まることなく、新しいスタイルにもチャレンジしていきたい」とも語った立花社長。球団創設16年目を終えたばかりの楽天はOBの数が少なく、ノウハウの蓄積も少ない。だからこそ、従来の球界の常識に捉われない進取の気性がある。三木谷浩史オーナーも、過去に外国人選手枠の撤廃に言及するなど、さまざな球界改革のプランを頭に描く。

石井新監督はGM兼監督への就任に「中途半端になるのではないか、しっかり責務を果たせるのか、という思いもあった」と迷いながら「簡単ではないからこそ、しっかり取り組みたい」と決断。「今をなんとかしっかり乗り越えていかないと、このチームに歴史ができない」と球団の行方を左右する責任の重さを自覚している。

巨人・原辰徳も“全権監督”を務めるが、石井新監督は監督もコーチも経験なし

巨人の原辰徳監督も、編成面の決定権を持つ「事実上の全権監督」といわれるが、監督在任14年目でリーグ優勝9回、WBC日本代表監督として世界一まで経験している。監督初体験でコーチ経験もない石井新監督とでは実績では比べ物にならない。また、かつて“球界の寝業師”の異名を取った根本陸夫氏(故人)は、西武でもダイエー(現ソフトバンク)でも、まず監督を数年務めて現場の事情を把握し、その後フロントに転じて辣腕を振るい、常勝チーム化に成功した。

石井新監督の場合は、フロントから現場監督への“逆コース”。「こういう所が足りないとか、弱いとか、強いとか、現場に入って初めて把握できることも多く、それが編成に生きたりもする」と新指揮官はメリットを強調したが、何から何まで異例づくめの人事である。

もちろん、石井新監督の野球観に寄せる経営陣の信頼は厚い。立花社長は「今後はユニホームを着て、ぜひ石井さんが考える野球をファンの皆さまに届けてほしい」と言う。石井新監督以上に、これまでのチーム強化の流れを熟知している人物もいない。

立花社長は、石井新監督と複数年契約を結び直したことを明らかにしたが、契約期間が残っていても、結果が悪ければ保証の限りでないのはプロ野球界の常識。もはや、チーム成績の責任を負う人間は、石井新監督以外にいない。これまで誰も経験したことがない戦いが始まろうとしている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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