水中考古学の進化 保存処理にトレハロース 10年超が2、3年に短縮

トレハロースを使った保存処理技術を開発した伊藤さん=松浦市立水中考古学研究センター

 鷹島海底遺跡の研究を通じて、水中考古学も進化してきた。その一つが遺物の保存処理技術だ。
 これまではポリエチレングリコール(PEG)という液体を浸み込ませる方法が一般的。しかし、木材全体に行き渡るまで時間がかかる上、吸湿性があるのも課題だった。処理した後も、木材にくぎなどの金属が含まれていると金属の腐食が進み、ゆがみや変色、亀裂などの劣化を食い止めることができなかった。
 PEGに代わるものとして、鷹島海底遺跡の調査で保存処理専門部会委員を務める大阪市文化財協会の伊藤幸司さん(58)が注目したのが「トレハロース」。トウモロコシなどのでんぷんから作られた天然糖質で、甘味料として食品業界で広く使われている。
 その溶液はPEGに比べ木材への浸透性が高く、PEGで10年以上かかっていた保存処理が約2、3年に短縮できる。吸湿性がないため、金属の腐食も抑えられるという。
 昨年、松浦市立水中考古学研究センターに導入された保存処理システムは、トレハロースを木材に浸み込ませる含浸(がんしん)槽がパイプを組み合わせたフレームに建築用膜材のシートを張れば作れるため、拡張や移設が簡単になった。含浸槽を温める熱源には太陽熱で作った温水を循環して利用し、消費電力を50%以下に低減することにも成功した。
 同システムによる保存処理技術は、将来の元船の引き揚げ、保存、展示につながるとも期待されている。伊藤さんは「低コストで、天然の材料を使うため環境にも優しい。吸湿性がないので、東南アジアなど高温多湿地域でも活用でき、最新の保存処理技術として国際的にも注目を集めている」と話した。


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