西武・栗山巧の凄さを徹底検証 通算2000安打へ屈強な身体に選球眼、少ない三振数

西武・栗山巧【写真:荒川祐史】

10月下旬からは4番に座り、本塁打数はキャリア最多の12本を記録

西武の栗山巧外野手が、プロ19年目となるシーズンを終えた。ライオンズ一筋でプレーし続けてきた37歳のベテランは、今季、開幕から好調な打撃を維持。10月下旬からは中村剛也、山川穂高、エルネスト・メヒアといった長距離砲たちが調子を落としたこともあり、4番打者の大役を任されるように。新たな持ち場でも持ち前の勝負強さを発揮し、激しい2位争いの中で幾度となく貴重な打点を叩き出した。

栗山は2020年シーズン終了時点で通算1926安打を記録しているが、この数字は西武の選手としては球団史上最多の数字となっている。今季も101安打と、2年連続、通算11度目の3桁安打を記録。来季は西武の長い歴史でも初めてとなる、生え抜きとしての通算2000本安打達成の期待がかかるシーズンとなりそうだ。

同い年で同期入団の中村と共に、チームの精神的支柱として昨季までのリーグ連覇にも貢献してきたが、2017年から2019年にかけては3年連続で打率.250台と低迷。過去の実績を考えればやや苦しい時期を過ごしていた。しかし、今季は9月1日の時点で打率.303をキープするなど安定した打撃を続け、最終盤にやや調子を落としたものの、打率は4年ぶりに.270を超え、本塁打数はキャリア最多タイの数字を記録した。

最多安打とゴールデングラブ賞にそれぞれ1度ずつ輝き、ベストナインを3度受賞した実績を誇る栗山にとって、打線全体が不振に陥る中でチームをけん引する活躍を見せた今季は、復活の足がかりをつかんだシーズンと言えそうだ。頼れるベテランが過去数年に比べて成績を向上させた理由は、いったいどのような点にあったのだろうか。

今回は、栗山が19年に渡るプロ生活で残してきた成績をあらためて振り返るとともに、栗山が今季記録した各種の数字を、セイバーメトリクスで用いられる指標を交えながら分析。それに加えて、コース別、球種別の打率についても確認していくことで、成績向上の理由について迫っていきたい。

栗山巧の通算成績【画像:パ・リーグ インサイト】

故障欠場の少ない頑強な身体と、安定して高い数字を維持する出塁率

栗山はプロ4年目の2005年に規定打席未満ながら.300近い打率を残し、84試合で10本塁打を記録するなどパンチ力も発揮。2007年には自身初めて出場試合数を3桁に乗せて主力の座をつかむと、翌2008年には2番打者に定着し、自身初の規定打席到達と打率.300超えを達成。チームメイトだった片岡易之(治大、現巨人2軍内野守備走塁コーチ)と同数で最多安打のタイトルを獲得し、同年のリーグ優勝・日本一にも大きく貢献した。

その後も長年にわたって不動のレギュラーとして活躍を続け、2008年、2010年、2011年と4年間で3度ベストナインを受賞。1軍デビュー当初は課題だった守備面も年々向上を見せ、センターとして広い守備範囲を発揮した2010年にはゴールデングラブ賞を初受賞。走攻守の3拍子が揃ったリーグ屈指の外野手として、安定した成績を残し続けた。

また、2008年から2016年までの9年間において、死球で骨折し長期離脱を強いられた2012年を除く全ての年で135試合以上に出場。とりわけ、5シーズンのうち4度全試合出場を達成した、2010年からの5年間の稼働率は素晴らしいの一言。故障離脱の少ない身体の強さも、長年に渡る安定した活躍ぶりと、1900本を超える安打につながったといえるだろう。

そして、卓越した選球眼も大きな持ち味。1軍に定着した2005年以降の16年間で、出塁率が.350に届かなかったのはわずかに3度のみ。通算921四球は現役選手の中では鳥谷敬内野手(ロッテ)、福留孝介外野手(阪神退団)に次ぐ3番目の多さであり、過去に15人しか達成していない。通算1000四球という金字塔に到達する可能性も見えてきている。

冷静にボールを見て四球を選ぶことが多く、それでいて三振数は少ない

シーズン本塁打は12本が最多と、長打の数自体はさほど多くないこともあり、OPSの面では.830を超えたシーズンは1度もなかった。それでも、1軍に定着した2005年から2016年まで12年連続でOPS.720を超えており、やや不振に陥ったシーズンであっても一定以上の貢献度を示し続けてきたことが、指標の面にも表れているといえよう。

ただ、2017年と2019年はOPS.680台に終わっており、これまでのキャリアの中でもとりわけ苦しんだシーズンといえた。それでも、今季は2013年以来7年ぶりにOPSを.780台まで戻しており、指標の面でも復活の兆しを見せている。

OPSと同様の傾向は、三振率にも表れている。最多安打を獲得した2008年には612打席に立って三振率.0996という素晴らしい数字を記録しており、2005年以降はキャリアを通じて三振率が.200を超えたことはなかった。しかし、2018年からは2年連続で三振率.215と、栗山にしてみればやや高い数字となっていた。今季はその三振率も.100台に戻しており、打席内容が向上していることがうかがえる結果となった。

先述した通り、栗山の選球眼の良さはかねてから評価の高い。四球率が.100台を超えたシーズンもキャリアを通じて11度あり、IsoDが.100を上回るシーズンも5度存在。四球を選ぶ確率の高さは、選球眼の優劣を示す指標にも表れている。

2017年以降は各種指標の面でも苦戦の跡がうかがえるシーズンが続いていたが、四球とIsoDに関しては、2017年を除いてそれぞれ一定以上の数字を維持していたことがわかる。選球眼という面においては、年齢を重ねてからも一定以上の能力を保ち続けていると言えそうだ。

栗山巧のコース別打率【画像:パ・リーグ インサイト】

栗山に対して真ん中から高めの球は厳禁?

次に、栗山が今季記録した、投球コース別の打率についても見ていきたい。ストライクゾーンの中であれば、外角低めを除く8つのコースで.250以上の数字を記録。特に、真ん中より高めの球に対しては6コース全てに対して打率.320以上を残している点は特筆ものだ。それでいて、低めに対しても極端に弱いというわけではなく、ストライクゾーンの中で打ち取ることは難しい。優れた選球眼を持つ栗山に対して安易にボール球を投じるわけにもいかず、対戦相手は難しい組み立てを強いられることになる。

また、ど真ん中に対して.391とかなりの高打率を記録しており、絶好球をミスショットすることなく確実にヒットにしていたことがわかる。また、外角低めこそ苦手としているものの、外角の高めに対してはコース別で最も優れた打率を記録。投手としては低めを丹念に突くことが求められるが、コントロールミスで球が少しでも高くなれば痛打を浴びる可能性が高いことも、今季活躍の要因の1つと言えそうだ。

最後に、今季の栗山が記録した球種別の打率も見ていきたい。シンカー・ツーシーム、カットボールといった球に対して高い打率を記録しており、カットボールと似た変化をするスライダーに対しても好相性。速い球を用いた左右の揺さぶりにきっちりと対応しているところも、長年プロの舞台で生き抜いてきたベテランならではだろうか。

その一方で、シュートに対しては打率.111と極端に苦手にしており、カーブやチェンジアップといった緩い球への対応にもやや苦慮している。その一方で、今季苦手としていた低めのコースに投じられるケースが多い、フォークに対してはある程度の数字を残している点は興味深い。総じて、今季の栗山は球種による得手不得手がはっきりしていた面があるようだ。

栗山巧の球種別打率【画像:パ・リーグ インサイト】

持ち味の選球眼を維持したうえで、さまざまな要素によって打撃内容も良化していた

指標の面では出塁率と三振率が過去数年に比べて向上し、四球率やIsoDといった要素もこれまで同様の優れた数値を維持。これまで同様に持ち前の選球眼を維持しながら、今季はコンタクトの確実性やゾーン管理の質といった点に改善が見られたことが、打席内容の向上、ひいては打率や本塁打数といった、目に見える数字の増加にもつながっている。

それに加えて、コース別の打率に表れている通り、今季は真ん中から高めの球をミスショットする確率が少なくなっていた。三振率の低下や本塁打数の増加といった、過去数年に比べて良化したポイントについても、得意なコースの多さがダイレクトに好影響をもたらした可能性は高いだろう。

兵庫県出身の栗山は幼少期に阪神淡路大震災で被災した経験を持つこともあり、チャリティー活動にも熱心だ。東日本大震災の被災地支援や小児がんと闘う子どもたちと、その家族への支援に加え、オフには少年野球大会の「栗山巧杯」を主催。2014年には社会貢献活動に熱心な野球関係者に贈られる「ゴールデンスピリット賞」を球団史上初めて受賞するなど、プレーのみならず、人間性の面でも高い評価を受けている。

長きにわたってライオンズに多大な貢献を続けてきた栗山は、今季の活躍であらためてその存在価値の大きさを示したといえる。節目のプロ20年目を迎える来季は、いよいよ通算2000本安打の金字塔に挑む1年になりそうだ。獅子の屋台骨を支える大ベテランの活躍からは、あらゆる意味で目が離せないことだろう。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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