<大ヒット盤>福田こうへい『筑波の寛太郎/あれが沓掛時次郎』股旅、任侠を伸びやかに、キレよく

 通算10作目となる両A面シングル。2作とも時代小説家の松岡弘一が作詞、ヒット実績の多い水森英夫が作曲という珍しい組み合わせで、彼の実力を余すことなく引き出している。

 『筑波の寛太郎』は、「ツンツン筑波の~」の部分が憶えやすい股旅演歌。氷川きよしや山内惠介の初期を想起させる水森メロディーを40代の福田が歌うと、かつての若者はこうだったと、物語を説明されているような気持ちになる。歌声も伸びやかで、特に「背を向ける」の高音部分など民謡で鍛えた節回しも聴き心地がよい。

 『あれが沓掛時次郎』は、任侠モノの登場人物をイメージしており、「斬った相手」や「義理が重たい渡世人」など、一筋縄ではいかぬ人生を送ってきた男が描かれているが、緩急を利かせたカラオケ上級者向けのメロディーを、福田が刀を振り回すがごとくキレよく歌いこなすので、淀んだ雰囲気はなく格好良さだけが残る。いずれも小説家ならではの硬質な言葉も印象的だ。

 DVDには2曲のビデオと、福田、担当プロデューサーの古川健仁、そして松岡、水森の4人での“スペシャル対談”を収録。股旅姿の演技がどこか初々しかったり、歌に対する情熱を東北なまりで懸命に伝えていたり、どちらも通常の音楽番組では見られない福田の姿が新鮮だ。本作を堪能すれば、努力し続ける人の謙虚さをより実感できるはず。

(キング・CD+DVD 1545円+税)=臼井孝

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