「マイクロバス×電動キックボード」で移動の可能性を拡張 EXxが見据えるモビリティの未来

今年5月に設立した株式会社EXxは、マイクロバスを活用した宿泊・滞在サービスを提供していた株式会社DADAと、電動キックボードのシェアリングサービスを手掛けていた株式会社mymeritが合併して生まれた会社だ。

それぞれ取り組んできた、「動くホテル」と「マイクロモビリティ」との相乗効果を生かして、移動の可能性を拡張すべく挑戦を始めた。

EXxの代表取締役の青木大和氏、取締役の中根泰希氏と杉原裕斗氏に同社のビジネスやこれからの展望について伺った。

――EXxとして活動を始める以前、DADAとmymeritはどのような事業をしていたのでしょうか?両社が合流した経緯も含めて教えてください。

杉原氏:

青木が代表を務めていたDADAは、マイクロバスを改造して宿泊や滞在ができる可動式滞在施設「BUSHOUSE」というサービスを提供していて、私と中根が創業したmymeritは、電動キックボードのシェアリングサービスを手掛けていました。

例えば、BUSHOUSEを導入した場合、移動した先に交通インフラがないという問題がありました。そこで、BUSHOUSEと電動キックボードの親和性が高いだろうということで合流しました。

1つの自治体の中にも色々な特性を持つエリアがあって、例えばここは宿泊施設が足りない、ここは地域の交通がうまく回ってないなど、課題はそれぞれです。それらのニーズに対してEXxでは電動キックボードとBUSHOUSEを単体もしくは組み合わせたアイデアを提案しています。

左から、株式会社EXx 取締役の杉原裕斗氏、代表取締役の青木大和氏、取締役の中根泰希氏(提供:EXx)

――電動キックボード事業は、公道走行の実証実験が始まりましたね。

杉原氏:

はい。EXxとして「新事業特例制度」

を用いた電動キックボードの公道(特定エリアの車道+自転車レーンのみ)での実証実験に認定していただきました。

※新事業特例制度:新事業を行おうとする事業者による規制の特例措置の提案を受け、安全性などの確保を条件として「企業単位」で特例措置の適用を認める制度。産業競争力強化法第6条及び第9条の規定に基づく。(参考:経済産業省)

実証実験はLuupとmobby rideの2社も行います。EXxは東京都世田谷区と渋谷区、神奈川県藤沢市の全域と千葉県柏市の一部エリアで実施します。今回の実証実験では、電動キックボードの「走行場所の拡大」

による安全性・利便性を検証することが大きな目的なので、ライドシェアではなく特定の方にたくさん乗っていただくことに重点を置いています。

※現行の道路交通法では電動キックボードは「原動機付自転車」に該当する。通常、公道では運転免許やヘルメット、ナンバープレートなどが必要で、車道を走行する必要がある。

柏市の場合は三井不動産と連携して、「31VENTURES KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」というシェアオフィスの施設内に20台の原付化した電動キックボードを設置して、会員約250人を対象に使っていただく想定です。また、このエリアは駅前から少し離れた場所に大学などさまざまな施設があるので、ゆくゆくはそれらを結ぶ移動手段として電動キックボードを導入していきたいと思います。

BUSHOUSE×電動キックボードの相乗効果を目指す

――これらの取り組みは、2月に宮崎県日南市で行った実証実験で得た気づきも生かされているのでしょうか。当時の取り組みについても教えてください。

杉原氏:

日南市でおこなった実証実験は、電動キックボードとBUSHOUSEを掛け合わせた、初めての取り組みになります。

日南市には毎年プロ野球のキャンプ期間中に人口5万人の街へと15万人が殺到していて、その度に観光客の宿泊や移動の問題が発生していました。そこで、滞在施設とモビリティが統合されたサービスを観光客向けに提供する実証実験を行うことになったんです。宿泊施設の不足を補うものとしてDADAがBUSHOUSEを、最寄り駅から球場までの移動用にmymeritが電動キックボード、共同で実証に参加したパナソニックが電動アシスト自転車を提供しました。

結論を言うと、日南市での電動キックボードのシェアリングは難しかったです。シェアリングは人口密度が高いエリアに適しているモデルだと考えています。日南市は、プロ野球の1軍キャンプ期間が終わって2軍キャンプ期間になると見に来る人も大幅に減少する上、元々その地域に住んでる方も多くはないため、イメージしていたようには利用されませんでした。

これは電動キックボード業界や他のマイクロモビリティにも通ずると思うのですが、人口の少ない地域においてはシェアリングよりも個人所有へのハードルを下げるのがマッチしていると感じました。それを実感できた点では意味のある実証実験だったと思います。

可動式滞在施設とマイクロモビリティの統合サービス実証開始 宮崎県日南市で

可動式滞在施設やマイクロモビリティ事業を展開する株式会社DADA、パナソニック株式会社、株式会社マイメリットは、宮崎県日南市と連携し、2月1日から29日まで、可動式滞在施設「BUSHOUSE」や電動アシスト自転車、電動キックボードを活用した、観光客向け統合型モビリティサービスの実証実験を開始した。...

――日南市での実証実験はどういう経緯で決まったのですか?

青木氏:

今年はパナソニックとmymeritとDADAの3社でしたが、昨年はDADA単独でもやらせていただいたので、私自身は2度目の実施でした。私は学生時代にNPO法人を設立して10代の政治への関心を高める活動していて、当時から日南市の﨑田恭平市長にはお世話になっていた背景がありました。

大学在学中の2016年にコミュニティハウス「アオイエ」を立ち上げて活動する中で、日本には四季折々の風光明媚で観光的価値がある場所が各地にありますが、地域がそれをうまく発掘できていなかったり、事業者が参入していなかったりと、観光客と受け入れ側のミスマッチが生まれている場所が非常に多いと感じていたんです。

それで地方の小さな町の観光的価値を拾い上げて、そこに宿泊施設などの受け皿を作ることで、訪れた人たちが日帰りではなく、1泊2泊と長く滞在できるようにしたいと思い、2018年に可動式住宅のBUSHOUSE事業を始め、昨年に日南市での実証を行いました。

電動キックボード試乗会の様子(提供:EXx)

地域の小さな観光を生み出したい

――どのようにサービスを提案しているのでしょうか?また、ターゲットは自治体ですか?

青木氏:

今は全国の地方自治体と連携しながら、ローカルな経済圏での交通の足や、小さな観光地の新しい動線を作ることを目指して取り組んでいます。宿泊施設の新設を検討している自治体に対しては、まず2年間のBUSHOUSEの活用を提案しています。

サービスの提供にあたっては、まず「魅力的な場所」を見つけます。現地調査を行うと、山の上や海の目の前、ブドウ畑の横などさまざまな場所が見つかるんです。まずはそれらの場所で2カ月ごとにBUSHOUSEを移動させて、各場所の利用状況を分析します。

そうすると稼働率が高いところや人気の高いところなど、どこが観光体験として価値があるのか見えてきて、自治体側としては本格的な宿泊施設を建設する前の判断材料にもなるわけです。

バスは可動性が非常に高いのが強みですが、シャワーなどの水回りでは宿泊施設として弱い部分もあります。

今後、段階的にですが、コンテナサイズくらいまでは扱っていくことも考えています。コンテナもバスほどではないものの柔軟に動かすことは可能なので、事業モデルをバスだけに絞るよりも、ニーズに合わせてカスタマイズした提案をしていければと考えています。

――他にも連携が進んでいる自治体はありますか?

青木氏:

北海道の安平町です。新千歳空港から車で約15分の場所にある人口8,000人に満たない町ですが、「ディープインパクト」をはじめ日本の競走馬の多くがこの町の出身なので、競走馬を見に訪れる観光客も多いです。その安平町で広大な土地を所有されている方と一緒にBUSHOUSEを使った宿泊施設を作ろうと、来春オープンに向けて動いています。

中根氏:

この土地は農地法の規制上、建築物を建てて宿泊施設を営業することはできないのですが、BUSHOUSEは車両(トレーラーハウス)なので、すぐに移動できるという理由で可能になります。こういう規制を乗り越えられる可能性があるというのもモビリティの利点だと思います。

自由に移動でき、一時的な宿泊施設としての利用が可能
(提供:EXx)

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