「スマホはなかったけど」昭和の高校生活を描いた小説『青春とは、』

朝読書におすすめの本をご紹介する『まっこリ~ナのCafe BonBon』。小説やエッセイ、暮らしや料理の本など心に効く本をセレクトしています。

今日の「まっこリ~ナのカフェボンボン」の本棚は、作家・姫野カオルコの『青春とは、』

スマホもコンビニも使い捨てコンタクトもなかった「今からすれば」不便だった時代の青春とは。1970年代半ば、滋賀県の公立高校を舞台にした小説、新刊です。コロナ禍で家に閉じこもっていた女性の回想を描きます。

青春とは、
著者:姫野カオルコ
出版社:文藝春秋

家にいる時間が増えると、自分の内側に目が向くことに気づきます。感覚が自然と研ぎ澄まされ、ずっと忘れていた昔のことを思い出す。胸の奥に鍵をかけてしまっていたことも。

物語の始まりは2020年3月。都下のシェアハウスに暮らす乾明子は、家にこもって過ごしています。新型コロナウイルスの影響で仕事も休みになるなか、部屋の掃除の最中に見つけた一冊の古い本と名簿が、昔の記憶を呼び覚まします。女性の心は35年の時を超え本を貸してくれた男子がいた高校時代へ一気に飛び、生徒名簿に載っている同級生たちの姿や声がよみがえってきて——。

といっても乾明子が送った高校生活は、一見、楽しげでもさわやかでも華やかでもない。「クラコ」なんて呼ばれて自分でも「地味な部活の地味な私」だと言っていた。でもそれは、ただまわりの勝手なイメージでしかなくて。明子にとってはあの時が青春まっただ中。一冊の本と名簿から浮かび上がるシーンは色鮮やかで密度濃く、当時の不器用でひたむきな彼女の想いが伝わってきます。

「今からすれば」ずいぶんと不便だった時代。スマホもコンビニもなかったあの頃。どこか居心地の悪い青春小説を読んだ後は、やっぱり明子のこの言葉が心に戻ってきます。「今からすれば、青春とはすべて、かっこ悪いの上塗りである。かっこいいことに狂おしく憧れながらも」

ラブ&ピースな一日を。
Love, まっこリ〜ナ

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