STC2000第5戦:FFマシンも習得完了。ルーベンス・バリチェロが参戦初年度で初優勝

 2週連続ダブルヘッダー戦の初戦となったアルゼンチン最高峰のツーリングカー選手権、スーパーTC2000(STC2000)の2020年第5戦ブエノスアイレスは、今季から隣国アルゼンチンでの挑戦を開始したTOYOTA GAZOO Racingアルゼンティーナの元F1跳ね馬ドライバー、ルーベンス・バリチェロ(トヨタ・カローラSTC2000/TOYOTA GAZOO Racing YPF・インフィニア)が土曜クオリファイレース、日曜フィーチャーレースを制し、シリーズでのデビューイヤーに完璧な形での初優勝を飾った。

 同国で長い歴史を誇る元F1トラック、オスカー・ファン・ガルベスで11月28~29日に開催された第5戦は、今季2020年にキミ・ライコネンに更新されるまでF1最多出走記録を保持し、地元ブラジルでは2014年に国内最高峰ツーリングカーのSCBストックカー・ブラジルでタイトル獲得も経験する、バリチェロの独壇場となった。

 第4戦でパーフェクトを達成し、現在STC2000のランキング首位を行くチームメイトのマティアス・ロッシとともに、フランス・オレカ製の2リッター直列4気筒直噴ターボのワンメイクエンジンを搭載するカローラSTC2000のステアリングを握る元F1ドライバーは、その僚友に自身初挑戦となるFFドライビングの指南を受けながら、この難しいシーズンを戦い進めてきた。

 すると第5戦にして早くもその成果が現れ、土曜クオリファイレースでルノースポール・アルゼンティーナのマティアス・ミラ(ルノー・フルーエンスGT)や、Honda Racingアルゼンティーナのニコラス・モスカルディーニ、ファン-アンヘル・ロッソらのホンダ・シビックSTC2000勢を振り切り、まずは自身初勝利と日曜メインレースのポールポジションを確保した。

 そのブラジルからの強力な刺客に対抗すべく、2019年チャンピオンのリオネル・ペーニャ(ルノー・フルーエンスGT/ルノースポール・アルゼンティーナ)ら地元アルゼンチン出身ドライバーの多くは、この週末を前に急逝したサッカー界のレジェンド、ディエゴ・マラドーナを追悼する青白ストライプに“10”のステッカーをマシンに掲げ、日曜25周の決勝へと挑んだ。

 ここでクリーンなスタートを決めたバリチェロとは対照的に、フロントロウ2番手に並んでいたルノーのミラは後続を牽制した際に失速し、これでホンダのモスカルディーニとロッソが労せずしてポジションを上げて1コーナーへ。しかしロッソは4番手を争ったミラと接触しスピンオフ、スタート早々に隊列後方までドロップしてしまう。

 その後方では、9番手発進だったトヨタ系サテライトチーム所属のヴァレンティン・アギーレ(トヨタ・カローラSTC2000/ミーダス・カレラ・チーム)が、ミラとサイド・バイ・サイドを演じて4番手にジャンプアップし、ホンダとルノーを追いかける。

雨の予選で自己最高の4番グリッドを獲得したバリチェロは、ルノーやホンダ勢をかわして土曜クオリファイレースを制する
シーズン序盤戦はCOVID-19罹患で苦しんだRenault Sport Argentinaのマティアス・ミラ(ルノー・フルーエンスGT)も、初優勝を挙げたブラジルのスターを祝福
日曜フィーチャーレースは、ポールポジションから、まさに横綱相撲でライト・トゥ・フラッグの完勝を果たした

■多数のアクシデントに絡んだレイバーは失格処分に

 しかしこの日のバリチェロはレースペースでも敵はなく、12周目にはそのリードを4秒近くにまで拡大。その背後では、隣国の英雄をアシストしようとTGR陣営のスピードスター、ジュリアン・サンテロ(トヨタ・カローラSTC2000/TOYOTA GAZOO Racing YPF・インフィニア)が3番手に上がってくる。

 すると14周目からバリチェロを除く背後のバトルが動き出し、ポジション争いが激化。その中心を担ったのがシボレーYPFチームのベルナルド・レイバー(シボレーYPFクルーズ)で、サンテロのカローラにボディをコツコツとヒットしてラインを作り表彰台圏内へ。そのバトルに乗じてレイバーと同じマシンに乗る2016年王者アグスティン・カナピノ(シボレーYPFクルーズ)もサンテロを退け、2台のシボレーが2番手ミラの追撃に入る。

 さらに後方からはトヨタのエース、ロッシがジリジリと順位を回復し、ペーニャとはコース全周、エアロパーツが飛ぶほどの肉弾戦を展開し、サイドウェイ状態に陥った1号車フルーエンスGTとあわやTボーンという際どい勝負に。この勝負でともにコースオフを喫しながらも、トヨタのロッシが前に出ることに成功する。

 その前方2番手争いも、ミラ、サンテロ、そしてレイバーが順位を入れ替えながら“コンタクト上等”のエキサイトした状態へ発展し、ミラは再三にわたり突かれた影響でリヤバンパー飛ばしながらもポジションを死守していく。

 そこへシボレーのカナピノが加わり4WAYバトルになると、一瞬の隙を突いた巧者カナピノが前へ。一方、レイバーに後方からヒットされたミラは1コーナーでスピンを喫し、ここで勝負から脱落してしまう。

 さらにロッシ、サンテロのトヨタ勢に対し必死のディフェンスを展開したレイバーは、マシンを振った際にロッシをコース外へと押しやりカローラはグラスエリアを滑走。なんとかコントロールを保って復帰したロッシだったが、直後にリカルド・リサッティ(トヨタ・カローラSTC2000/ミーダス・カレラ・チーム)とルノーのミラが高速最終コーナーで接触し、ルノーがバリアに激突。

 このアクシデントでセーフティカーが出され、直前のコースオフの際に負ったダメージの影響で、スローダウンしていたロッシのカローラはこのタイミングでピットへ戻り、そのままリタイアとなってしまう。

 残り1ラップのファイナルスプリントで再開されたレースは、バリチェロが盤石のリスタートで首位を堅守。2番手モスカルディーニに仕掛けたカナピノが最後の最後でオーバーテイクに成功し、貴重な選手権ポイントを加算。88点の首位ロッシに対し75点とその差を詰め、4位に続いたレイバーは「危険なドライビング行為」として多くのアクシデントの起因になったと判定され、失格処分が下された。

 続く12月5~6日の週末にもここブエノスアイレスでふたたびのダブルヘッダー戦として2020年STC2000第6戦が開催され、それ以降の開催地は追ってアナウンスされる見込みとなっている。

僚友の無念を晴らしたかったHonda Racing Argentinaのニコラス・モスカルディーニは最後の攻防で自己最上位獲得ならず
大暴れを演じたシボレーYPFチームのベルナルド・レイバー(シボレーYPFクルーズ)は、レース後に失格処分が言い渡される
ライバル陣営のドライバーが次々とバリチェロのもとを祝福に訪れ、すでにシリーズでの立ち位置を確固たるものにした

© 株式会社三栄