『戦争と平和を考えるNHKドキュメンタリー』 歴史的映像の道しるべ

 平和学会から出された『戦争と平和を考えるNHKドキュメンタリー』は、NHKの協力のもと特別番組からよりすぐりを平和学の専門家が厳選し、その一つ一つがとらえた問題が何か、迫った真実が何かを伝える試みである。問題の本質を照らし出す歴史的な映像を探し出す道しるべと言っていい。
 勤める大学の授業として、映像で学習していく現代沖縄史を作ってきた経験がある。沖縄戦の開始から、戦後の米軍支配の確立、島ぐるみ闘争、自治権闘争、核兵器の配置と誤発射、核密約を伴う沖縄返還協定に至る沖縄史を、地元局の作成した優れたドキュメンタリー番組を中心にして、映像で学習していくものだ。なぜ、沖縄戦でこれほど多くの民間人が犠牲になったのか、なぜ戦後の沖縄は米軍支配とされたのか、なぜ、これほどの米軍基地が集中したのか、米軍の責任者は沖縄の支配をどのような目的でどのように行ったのか、なぜ、核兵器が沖縄に配置されたのか、なぜ返還前と変わらない米軍基地の恒久化と自由使用が今も認められているのか。優れたドキュメンタリーは、立証困難なこのような問題について、多くの歴史資料と映像を集め、仮説を構成し、生存者には証言を求め、歴史の真実を真摯(しんし)に追求しそれを実際の映像で伝えていこうとする。百の言葉や文書で伝えるよりも、一つの写真や映像が問題の本質を理解することに繋(つな)がることがある。
 しかし、どれが問題の本質に迫る優れた番組なのか、膨大な映像の海から、海図もないまま探し出すのは、極めて困難である。さらに、沖縄戦と沖縄の戦後史、そして「今」は、歴史的にも空間的にも世界の戦争、軍事や平和構築の営みと繋がっている。沖縄を理解するためには、歴史の中のより多くの実像を読み説いていかなければならない。海図のようにその手助けになるのが本書である。
 20世紀の戦争と平和についてNHKドキュメンタリーの50本以上の優れた番組を紹介している。多くの方が手に取り、映像を通して自分たちの「今」にたどり着くための知的な道案内として読んでいただきたい。
 (島袋純・琉球大教授)
 にほんへいわがっかい 1973年設立。日本社会と国際社会の軍事化、さまざまな暴力を科学的・批判的にとらえて、それらの克服を目指す研究活動をしている。学会誌『平和研究』を年2号発行している。

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