「批判は覚悟」で鷹柳田は“落選”…専門家が独自選出したパのゴールデングラブ賞は?

オリックス・山本由伸(左)とソフトバンク・中村晃【写真:荒川祐史】

捕手は事実上の“一択”も…盗塁阻止率で上回った捕手がいた

守備の名手に贈られる2020年の「三井ゴールデン・グラブ賞」が18日に発表される。5年以上のプロ野球取材経験を持つ新聞、テレビなどの記者が投票して選出するが、専門家が独自の視点で選ぶと、顔ぶれが変わることがある。ここでは、ヤクルトや日本ハム、阪神、横浜(現DeNA)で通算21年にわたって捕手として活躍した野口寿浩氏が選んだパ・リーグの“受賞者”たちを紹介する。

○投手
山本由伸(オリックス)
18試合、守備機会24、守備率1.000
4刺殺20補殺0失策1併殺

「パ・リーグはセに比べて守備のうまい投手の数が多い」と野口氏。今季は山本とソフトバンク・千賀が、シーズン無失策で守備率10割。ロッテ・石川、オリックス・田嶋、楽天・涌井、西武・高橋光もわずか1失策で、他に楽天・美馬も含めて「フィールディング、牽制ともにそつなくこなす」と評する。特に山本と千賀は甲乙つけ難いが、最後は悩んだ末に「千賀は今季、最優秀防御率、最多勝、最多奪三振の3冠に輝いた。山本は千賀と分け合った最多奪三振の1冠のみなので、バランスを取って山本に贈りたい」という理由で受賞者を決めた。

○捕手
甲斐拓也(ソフトバンク)
104試合、守備機会926、守備率.997
835刺殺88補殺3失策8併殺

「ほぼ一択。甲斐以外に考えられない」と野口氏は断言する。チームを3年ぶりのリーグ優勝、4年連続日本一に導いた存在感は際立っている。特にワンバウンドの投球を後ろにそらさない技術は極めて高く、捕逸数は西武・森、日本ハム・清水が7に上ったのに対し、甲斐は2に抑えた。自慢の盗塁阻止率は今季.328で、楽天・太田の.333を下回ったが、「太田はケガや打撃不振で登録抹消された時期があり、67試合の出場にとどまった。一方、甲斐は第2捕手の高谷が10月に故障で戦列を離れた後、ほぼ1人でマスクをかぶった。チームへの貢献度が段違い」と評価した。

○一塁手
中村晃(ソフトバンク)
60試合、守備機会488、守備率.992
452刺殺32補殺4失策45併殺

野口氏がとりわけその守備力を絶賛するのが、この選手である。今季は左膝痛で出遅れ、1軍初昇格が7月11日にずれ込んだが、それでも評価は揺るがない。「グラブさばきが非常に柔らかく、難しいショートバウンドの送球をすくい上げる技術が高い。一か八かではなく、常に捕りにいっている」と指摘。「内野手の送球ミスをミスにせず、何食わぬ顔をしてさばく。どれだけチームが助けられていることか」と絶賛する。「上背こそない(176センチ)が、あれだけうまい一塁手は、僕が知る限り、前ロッテの福浦和也さん(現ロッテ2軍ヘッド兼打撃コーチ、ゴールデン・グラブ賞3度受賞)以来。巨人、横浜(現DeNA)で活躍した駒田徳広さん(ゴールデン・グラブ賞10回)もうまかったが、中村晃も引けはとらない」とまで高く評価する。

○二塁手
浅村栄斗(楽天)
88試合、守備機会385、守備率.990
167刺殺214補殺4失策37併殺

「堅実さの浅村か、守備範囲が広くアクロバティックな周東か。持ち味が違うので比較が難しい」と野口氏を悩ませたポジションだ。周東は7月下旬にレギュラーの座を獲得し、二塁手として66試合に出場。失策は8に上り、守備率.972だが、「足が速く、普通は追いつけない打球に追いつけてしまう分、あわてて送球ミスをして失策が記録されていた。そこは差し引いて考えてあげるべきだ」と野口氏。それでも「個人的に今季楽天の試合を10数試合見たが、浅村のエラーは見た記憶がない」というほどの安定感を買った。

西武・源田壮亮【写真:荒川祐史】

三塁の対抗馬はソフトバンク・松田宣、遊撃は安定の西武・源田

○三塁手
鈴木大地(楽天)
88試合、守備機会183、守備率.978
62刺殺117補殺4失策10併殺

対抗馬はソフトバンク・松田宣だった。「今季は打撃不振にあえいだ松田だが、守備は相変わらずうまい。タイミングよく投手に声をかけムードを盛り上げるようなリーダーシップは抜群。これも重要な“守備力”だ。しかし、鈴木大はこの部分でも移籍1年目にも関わらず、しっかり発揮していた」と野口氏。甲乙つけがたいが、7失策、守備率.968の松田宣を、鈴木大がわずかに上回った。

○遊撃手
源田壮亮内野手(西武)
120試合、守備機会534、守備率.983
189刺殺336補殺9失策85併殺

失策が多いように思えるが、その多くは驚異的な守備範囲で打球をさばき、送球がわずかにそれて記録されたもの。凡エラーはほとんどない。難しいゴロもさりげなくさばく。「#源田たまらん」とハッシュタグを付けたツイートも広がるほどで、野口氏も「まさに一択。悩むところではない」と言うのみ。9月15日のロッテ戦で、1回1死からマーティンが放った投手強襲の当たりを、素手で拾って軽やかに一塁で刺し、ごく普通の「遊ゴロ」で収めたプレーなどは圧巻だった。

○外野手
辰己涼介(楽天)
97試合、守備機会192、守備率.974
182刺殺5補殺5失策2併殺

和田康士朗(ロッテ)
49試合、守備機会55、守備率1.000
53刺殺2補殺0失策1併殺

レオネス・マーティン(ロッテ)
101試合、守備機会183、守備率.967
169刺殺8補殺6失策1併殺

野口氏が「ご批判は覚悟の上。今年のゴールデン・グラブ賞でソフトバンク・柳田が落選することはまずありえないが、僕は一見の価値があるプレーをする選手や、将来へ向けて希望を持たせてくれる選手を選んだ」と声を大にしたのが外野部門だ。辰己については「打撃でなかなか結果を出せないため、ベンチを温めることも多いが、こと守備に関しては、足が速く、打球に対する勘も鋭く、一直線に落下地点へ至る。肩も強い」と絶賛した。

6月に育成選手から支配下登録を勝ち取った和田に至っては、「チーム試合数の1/2(60試合)以上に外野手として出場していること」という要件に満たず、受賞資格がない。それでも、代走などでリーグ3位の23盗塁をマークした俊足は、守備でもいかんなく発揮された。8月29日のオリックス戦に「1番・中堅」でスタメン出場し、5回2死二塁で福田周が放った痛烈な右中間への打球を、ダイビングキャッチしたプレーなどは、まさに一見の価値あり。マーティンはリーグトップの8補殺を記録した強肩が「エグい」。サプライズも込めた3選手の顔ぶれとなった。

【動画】まさに「たまらん」好守! 野口氏が絶賛した西武源田の芸術的ベアハンドキャッチ

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(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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