島忠株攻防戦で注目、「大量保有報告書」を投資に生かす方法

日経平均株価は11月に急上昇、29年ぶりに高値を更新、このまま年末を迎えるかという状況になっています。株価の上昇率は日経平均株価の64%に対し、マザーズ指数は140%の上昇(今年の安値からの11月末時点での上昇率)となっており、個人投資家がリスクを取れる状況になっています。相場が上昇すると個人投資家の動きが活発になるため、テーマ株にお金が集まり動きが良くなることが期待されています。みなさんも年末まではテーマ株で乗り切ろうと考えている方も多いのではないでしょうか。テーマ投資の一つとして今回は大量保有報告書のドラマや活用法をお伝えしたいと思います。


大量保有報告書とは?

「大量保有報告書」と聞くとワクワクしたり、投資家として血が騒いでしまう人はいますか? 株価が大きく動く材料なのでピンとくるのは株式投資中級者だと思います。では、ルール、事例、活用法などを説明していきましょう。

「大量保有報告書」とは金融商品取引法に基づき、上場会社の株券の保有が5%を超えた場合、提出義務が生じます。株式の大量保有は会社の経営に大きな影響を与えるので5%を超えた節目で報告をするというものです。その後、1%増減した際に変更報告書を提出します。

大量保有報告書には保有目的や購入日、購入数量などが記載されており、私は購入日と購入株数とチャートを照らし合わせてみるのが好きです。取引時間中にその銘柄の板を見ていると「大口が大量に購入するとこんな買い方、動きをするんだ」など発見が多いです。後から大量保有報告書を見て「あの尋常じゃない買いは一社が大量に買っていたのか」など腑に落ちることが多いです。たまに知り合いの大口個人投資家の名前が載っていることもあり、「頑張って張り込んでるなー」とか「買うタイミングがうまい」など本人を交えた飲み会のネタになることも多いです。

大量保有報告書にはいくつかのパターンがあり、提出者を大別すると「アセットマネジメント」、「信託銀行」、「銀行」、「証券会社」、「アクティビストファンド」、「事業会社」、「個人」などです。

「アセットマネジメント」は投資信託や年金の運用にかかわる株数の変動を報告しています。「信託銀行」は退職給付信託の財産として取得しているものなどがあります。「銀行」は持ち合いや昔から保有している政策株の変動、グループでの開示を行うために傘下のアセットマネジメントの保有株の変動で提出されることがあります。「証券会社」は信用取引や貸株を行うために保有しています。「アクティビストファンド」は「事業会社」は株式の持ち合い、資産運用としての保有を報告しています。

TOBで大きく株価が動く

TOB(株式公開買い付け)とはあらかじめ買い取る「株数」、「価格」、「期間」を提示して、一括して買い付ける手法です。株主は指定の証券会社で売却することが可能となりますが、株式の購入数が無制限の場合はTOB価格に株価がサヤ寄せするのでそこで売っても良いでしょう。

このTOBに絡むもので敵対的な買収が発表になった場合はさらに株価が上昇することが多いです。直近では島忠株のパターンでしょう。

島忠は首都圏にホームセンターを展開しており、同業のDCMホールディングス2020年9月18日の日経新聞に「買収を検討」と報じられ、10月2日にDCMホールディングスが島忠に対して1株4,200円でTOBを発表、10月21日にニトリホールディングスが島忠に対してTOBを検討していると報道、10月21日にアクティビストファンドと思われる「シティインデックスイレブン」が島忠株を8%強の保有を発表。10月29日にニトリホールディングスが島忠に対して1株5,500円で完全子会社化する旨を発表しました。

島忠はDCMホールディングスのTOB提案に対して賛同の旨を示していましたが、ニトリホールディングスがさらに高い株価でTOB提案をしたことにより株価は高いところで決着しています。

投資家はどのタイミングで島忠株を購入すれば利益を獲得できたか考察しますと、私は9月18日の報道時の1択だと考えています。

同日にDCMホールディングスが出しているIR(本日の一部報道について)で「当社は常々今後の成長戦略として、株式会社島忠も含め、他社との提携・様々なM&Aの可能性を検討しておりますが、いまだ決定しているものはありません。今後何らかの決定を行いましたら、速やかに開示いたします。」となっており、報道を全面否定しているわけではありません。

この時点では株価も24.7%(ストップ高翌日の9月24日と9月18日の終値比較)しか上昇していません。仮にDCMホールディングスからTOBの発表が出ないとしても首都圏の好立地に多数の店舗を持ち、資産も多く持っている割安株の島忠に対しては他社からのM&Aの可能性も考えられます。このためすぐ株価が元に戻って損をしてしまうより現在の価格より高い水準のM&AがDCMホールディングスから出される可能性が高いと考えていました。

結局DCMホールディングスからは10月2日に報道後の9月24日の終値である3,590円より約17%高い4,200円でTOBが発表されました。その後、ニトリホールディングスの買収報道が発表され株価はさらに上昇したわけですが後に発表されるTOB価格は報道後の株価を上回っています。

TOBで儲けるには?

TOBに絡む売買をやってみたい方は空振りに終わった際の下落リスクもありますが報道初動で購入し株価の伸びを待つ手法、TOB株価にサヤ寄せした際に購入すると下値にはたくさん板があるので微損で撤退できる手法が良いでしょう。

最後に注意点とその他活用法を記しておきます。TOBが発表された銘柄すべてがこの手法の対象になるわけでなく、直近だとアプラスフィナンシャルのように親会社の新生銀行の持ち分が多くなるため上場廃止になるようなTOBは株の取り合いは起こらないのでこの手法の対象になりません。一つ一つの事象を確認して取り組んでいただきたいと思います。

アクティビストファンドの大量保有については長いタームで株数を積み上げたりTOBに至らないパターンも多いため大量保有を材料に飛びつくと結果が出ないことも多いです。

個人的には、事業会社では光通信の大量保有に注目しています。資産運用として株式投資を行っているのだと思いますがバリュー株に目をつけることが多く、大量購入したバリュー株の着目点を分析することでスキルアップにつながるでしょう。

このように大量報告にはいろいろな視点とドラマがあるので皆さんの売買ロジックに組み入れてみてはいかがでしょうか。

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