【アメリカ大統領選挙②】スタートアップのトレンドにとっては追い風か

 前回の記事に引き続き、アメリカのFintechスタートアップ「Brex※」が昨年12月に公開した、2020年の大統領選挙がテック業界に与える影響を6つの切り口から論じた記事“Electron 2020 and Tech”(BrexはTechCrunch内でエコシステムに関する情報を発信している。詳しくはこちら)の内容を紹介しながら、今後の成り行きについて考えてみたい。なお、この引用記事は、民主党代表がバイデンに決まる前に書かれた記事となっているため、バイデン氏を含めた3名の民主党候補(他バーニー・サンダース、エイミー・クロブシャー両候補)、およびトランプを比較しながら議論が進められていることをご了承いただきたい。

 前回は、インターネットの中立性・テック企業への待遇・移民について述べた。後半となる本記事では、

・知的財産

・貿易・国際投資

・政府による研究開発援助

の3つの観点から紐解いていく。

1. 知的財産 - スタートアップにとっては先行き不透明

 自社技術の保護から、その活用へと知的財産のあり方が転換してきている中で、特許をめぐる訴訟は非常に高額となることは今も昔も変わらない。製品開発やマーケティングを重視するスタートアップにとって知的財産に多くのリソースを割くことが難しいと考えられるため、特許訴訟に際する負担をどう軽減するかが重要となる。

 バイデンは一定の政策を打ち出しているものの、「アイデア = 知的財産」という彼の考えは、アメリカにおける旧態依然の先発明主義(先に発明した方が特許される)への回帰を連想させるもので、大きな評価はされていない。

2. 貿易・国際投資 - バイデンと他候補との明確な違い

 貿易規制と関税による自国産業の保護は各政権によって方針が大きく異なり、2010年代前半はTPP(環太平洋経済連携協定)をはじめとする世界的な貿易協定が成立したが、2016年のBrexitを皮切りに保護主義へと転換、米中の経済関係は冷え切っている。

 オバマ元大統領の側近であった民主党でも穏健派といわれるバイデンは自由貿易に積極的である一方で、トランプと他の民主党候補は保護政策の信奉者である。テックを通じて価値を創出するスタートアップにとっては、マーケット獲得に国境がない方が好都合であることは自明の理であり、海外で次なるエコシステムの発展が加速している今、バイデンの大統領就任はスタートアップ・エコシステム全体にとって大きな追い風になるのではないか。

3. 政府による研究開発援助 - これまでの実績を大きく評価

 民間主導のイノベーションが増加する一方で、政府による研究開発への援助は年々低下しているようだ。スタートアップはほとんどが民間のVCや個人投資家からの資金調達だが、ライフサイエンス系などは国家からの支援がクリティカルとなる分野だ。

 オバマ、トランプと重視する姿勢は見せているものの援助金の増加という結果には結びついていないが、バイデンにはその期待を寄せてもよさそうだ。2016年にアポロ計画に匹敵する国家プロジェクトとして期待を集めた、ワクチンによるがん治療推進計画“Cancer Moonshot 2020”の提唱者がまさにバイデンであり、研究開発に大きな関心を寄せてきた経歴が他の候補を大きく引き離して評価されている。

 スタートアップが世界的なムーブメントとなる中、メッカであるアメリカから他国へのスタートアップ投資はこれから増加することが予想され、分野もITからDeep Techと呼ばれるような研究開発に根差した分野が次に注目されるといわれている。そのようなトレンドを鑑みても、アメリカの次期大統領にバイデンが選出されたことは、アメリカのスタートアップ・エコシステムにとって追い風になるのではないだろうか。4年の大統領任期中の一貫した政策を通じて、アメリカのスタートアップ・エコシステムがどのように変化を遂げるのか、これからも注視していきたい。

※Brexは2017年にサンフランシスコで創業し、スタートアップをはじめとする小規模な事業体が容易に金融サービスを受けることのできるプラットフォームを展開しているユニコーン企業。その他、自社の顧客ネットワークをもとにシリコンバレーの現地情報を活発に発信している。

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