ホンダN-ONE「見た目で判断してはいけない」モデルチェンジを検証

丸目2灯の愛くるしいフロントフェースとコロッとしたフォルムが愛されてきたホンダN-ONE。その新型は大切にしてきたデザインを「いいものは変えなくていい」とキープコンセプトを貫きました。果たしてその出来映えは?


「懐かしのデザイン」が若年層にも人気に

ホンダにとって1966年に発表された軽自動車、初代N360の成功があったからこそ、同社が本格的に4輪の乗用車作りを軌道に乗せることができたといえるエポックメイキングな1台です。そのデザインは丸型2灯のヘッドライトを備えたフロントマスクと、丸っこいお尻、そしてコロッとした2ボックススタイルがとても印象的なクルマで、大ヒットしました。

さらに当時の軽自動車としては室内も広く、実用性も高かったのです。そして走りの性能でもホンダらしさを発揮して“軽自動車のパワー戦争の火付け役”などともいわれ、つねに話題の中心にいました。

そんなN360のDNAを受け継ぐように初代N-ONEは2012年にデビュー。最初、そのスタイルを目にしたとき、昔のN360を知る世代の人たちは、かなり興奮したはずです。丸型2灯式ヘッドライトと独特のデザインのフロントグリル、丸っこいフォルムとキュートなリアスタイルが、あのN360を彷彿とさせるものだったからです。現代の実用に合わせようと、全高は少しばかり高くしたトールワゴン・スタイルですが、間違いなくN360との共通項をたくさん見つけることができました。

そして実際に発売されると、60年代に登場した車のデザインを現代風に解釈したスタイルは多くの共感を得て、これまたヒット作となったのです。その支持層はといえば、このスタイルを懐かし感じるおじさん達ではなく、若い人たちだったのです。

最近の流行からいえば、軽自動車は居住空間を求めて、どんどん上方向に伸びて、ダイハツのタントやホンダの人気車、N-BOXなどの全高が1,800mm前後もあるスーパーハイトワゴンと呼ばれるスタイルが主流といっていいでしょう。

対してN-ONEは全高が1,610mmでしたからトールワゴンといっても、それほど背が高い方ではなく、実用面では主流派には適いませんでした。当初はどんな戦いを見せてくれるか? 先の読めない状況だったのです。ところが実際にいざスタートしてみると、愛らしいフェースと独特のフォルムが魅力的な個性と捉えられたのか、先進性を表現したハッチバックスタイルは受けたのです。そしてその人気はモデル末期になっても継続していたそうです。

失敗の許されないモデルチェンジ

そこでホンダは「いいものは変える必要がない」と判断。初代N-ONEのデザインは踏襲されることになりました。この決断は本当に勇気が必要だったと思います。確かにN-ONEのデザインはいまだに魅力的ですが、「変わり映えしないじゃないか」という意見が大勢を占めたら、フルモデルチェンジは失敗ということになるかもしれません。実際にエンジニア達は相当に悩んだと聞きました。

それでなくとも、ホンダのNシリーズにはN-BOX、N-WGN、N-VANと商用も含めてですが途切れなくラインアップされていますから、N-ONEの成否によっては必要性や存在意義までもが議題に上ることだってあるわけです。だからこそ失敗の許されないモデルチェンジなのですが、それを切り抜けるために「このいい流れは継続すべき」という意見でまとまったということです。そしてこのデザインが、ユーザーが喜んでくれるものなのか、カーライフを楽しくしてくれるものなのか、とにかくユーザー目線で考え抜いた結論だというのです。

目の前に登場した2代目のN-ONEは確かに先代との大きな差を感じることがありませんでした。これをホンダはこだわり抜いた「タイムレスデザイン」と呼びました。その歴史の始まりは、先代のN-ONEではなく、もちろんホンダ発の量産軽自動車であるN360以来、半世紀以上にわたって継続されてきた「丸・四角・台形」という特徴的な外観のデザインを継続するためのまさにコンセプトともいえる重要なワードなのです。

変わらないといってもフロントマスクは少し立ち気味になっていますし、デザインも少し違います。何よりも細部を見れば質感が向上していることが理解できるのです。ぱっと見の変化は少なくとも、確実に進化を見せています。
もちろん、この変化をユーザーがどう捉えるかが重要なのです。安くとも160万円あまりの金額を支払ってくれるか? が問題なのです。

一方でユーザーは見た目の変化だけで、フルモデルチェンジの出来具合を判断するのでしょうか? 室内の広さや使い勝手といった実用性、さらには先進の安全装備など、いくつもの最先端技術や新しいホンダのアイデアにだって注目しているのです。

## 新型N-ONEの乗り心地は?

そこでさっそくドライバーズシートの腰を下ろしてみました。外観とは違い、室内は設計などを変更して、新しさがより明確になっています。それでも基本にあるのは、より使いやすく、快適なフィット感の実現です。あの旧型にあった適度なタイト感は今回も健在なのですが、別に狭いと言うことではありません。背が高すぎる軽自動車は、どこかだぶついたコートのような着心地で個人的にはあまり好きではなかったのですが、N-ONEはドアやフロントガラス、操作系やインパネとの距離感がちょうどよく、着心地のいいカジュアルウエアのようなフィット感なのです。これが実に心地いいのですが、新型は、ただ単に広さを求める方向ではなく、フィット感をしっかりと維持してくれていたのです。

さらにその感触は走り出してみるとさらに光ります。基本的な骨格がよりしっかりとしたので、走りに安定感が生まれました。キビキビと走り、サスペンションは路面のうねりをしっかりと吸収しながら、街角から街角へ、そして高速道路へと軽快に走って行けるのです。

そして高速道路では運転支援装置であるHonda SENSINGが、さらに磨きがかかった走りを見せてくれます。ACC(アダプティブクルーズコントロール)やLKAS(車線維持支援システム)の精度が上がって、以前よりさらに安心して快適で安心なドライブを楽しめるようになっていました。ゆったりとクルージングをしていると、軽自動車であることを忘れさせてくれるような質感の走りなのです。

外の変化は少なくとも、確実に進化した「程よい快適さ」を見せられると、見た目で判断してはいけないという、ごくごく当たり前の結論が改めて浮かんでくるのです。さらに今回のモデルチェンジで嬉しいトピックがひとつ。初代モデルの時に「ホンダらしい、ターボエンジンと6速マニュアルの組み合わせた仕様を」という声に応えるかのようなモデルが登場しました。マニュアルですから少数派であることは確かですが、N360のDNAを引き継ぐ存在とすれば、走りを磨いたモデルも当然必要です。

こちらも試してみると、これがまた楽しい。ATよりもこちらの方がN-ONEのキャラクターに合っているのでは、とも言いたくなるような仕上がりなのです。RSの6速MT、1,999,800円です。売れ筋となるプレミアムグレードが1,779,800円ですから20万円以上高額。それでも差額を払ってもいいと思えるほどの楽しさがRSのマニュアルにはありました。

現在のところ、新型のセールスは順調だとのこと。このタイムレスデザインの鮮度がまだまだ落ちないことを祈りながら、テストを終えました。

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