「クラスを越えた」新型ルノー・ルーテシアがお買い得な理由を探る

日本で言えばコンパクトカーの部類に入る「欧州Bセグメント」。このマーケットで2019年度のNo.1の販売を誇るルノー・ルーテシアがフルモデルチェンジ。2020年11月6日より日本での発売を開始しました。5代目となるモデルは「例のアライアンス!?」により日本市場でもヒット間違いなしの仕上がり。その理由を試乗も含めて解説します。


プラットフォームやエンジンを大刷新

ひと言で表現すると今回の新型ルーテシアは「全てが刷新」された点にあります。

普通であれば、デザインやコンセプトなどを先に解説するところですが、まずクルマの重要な部分であるプラットフォーム(骨格など)に最新の「CMF-B」と呼ばれるものを採用しました。

少しクルマに詳しい人ならばピンと来たかもしれません。実はこの「CMF-B」は11月24日にフルモデルチェンジした日産ノートにも採用されています。

ちなみに「CMF」とは「コモンモジュールファミリー」の略。つまり、ルノー/日産/三菱の三社におけるアライアンスによる産物であり、三菱はまだ未定ですが、グローバルで共通に使用されるプラットフォームなのです。

現在、プラットフォームやエンジンなどのパワートレーン系などはグループ内だけでなく、企業間を越えて採用されるケースも珍しくはありません。

後述しますが、実はルーテシアに搭載される新型エンジンはメルセデス・ベンツとの共同開発によるものです。欧州では「シタン」と呼ばれる小型商用車の新型モデルがメルセデス・ベンツから発表されています。このクルマはルノー・カングーをベースにしており、提携関係にあるダイムラーとの協業によって生まれてきたわけです。

つまり今回のルーテシアも、これまでこのクラスに不足していた先進技術や品質に関しても日産とのアライアンスを生かしたクルマに仕上がっていることがわかります。

全幅は25mm狭く、扱いやすさは向上

全長4,075×全幅1,725×全高1,470mm、3ナンバーですがとにかく取り回しがしやすいです

欧州、特にパリなどでは日本同様に幅の狭い道は結構多くあります。それほど渡欧経験があるわけではない筆者も正直、辟易してしまうほどクルマの取り回しには気を遣います。日本には3/5ナンバーという区分けがありますが、昨今のクルマは全幅が拡大傾向にあるのも事実。個人的には日本の道路では5ナンバーのほうが事情に合っていると感じています(理由は長くなるので割愛)。

新型ルーテシアは残念ながら3ナンバーなのですが、それでも全幅は1,725mmとほど取り回しは5ナンバー車と同様で、さらに旧型より25mmも狭めているのも特徴です。たかが25mmと思われるかもしれませんが、マンションなどの立体駐車場などでこの寸法差は入出庫時の扱いやすさに意外と効いてきます。その点でも新型ルーテシアに好感が持てました。

スタイリングはよりモダンに、注目はインテリア

シンプルでありながら質感の高さはこのクラスではトップレベルの仕上がり。必見です

新型のデザインやコンセプトは旧型から継承したものです。もちろんルノーとひと目でわかるデザインアイコンは数多くありますが、細部の仕上げなども含め、モダンさを加えた点も魅力のひとつと言えます。

そして注目はインテリアの大幅な質感&機能向上です。従来までのルーテシアのインテリアはそれなりの「味わい」は感じていたのですが、昨今のADAS(先進運転支援システム)などを搭載するためにも変革が求められていました。

最近聞く機会が増えた「スマートコクピット」をルノー流に仕上げたのが新型ルーテシアのインテリアだと感じました。

各機能に関しては後述しますが、ここのパーツなどの質感の向上は圧倒的。あくまでも概念とはいえ、従来のBセグメントを越えており、ライバルを引き離すほどの仕上がりとなっています。

一例ですが、ダッシュボードにはしっかりソフトパッドの加工が施されています。最近は上位のCセグメントでも“樹脂感丸出し”と言ったプラスチック的なクルマも増えてきています。コスト削減の一環でもあるわけですが、それなりに高額を支払うのにその品質では正直厳しいと感じるのも現実です。また各種スイッチ類に関しても押した際の“感触”もしっかりしています。

シートに関しては従来から着座感は良好でしたが、座面長も拡大されており、比較的大柄の人でもしっかりと身体をサポートしてくれます。

リアシートはもちろんクラスなりのサイズですが、足を前席の下に入れやすく、少しアップライト(立ち気味)の姿勢で座らせるスタイルは意外と長距離走行時でも疲労が少ない場合があります。

何よりも背もたれの部分も含め、しっかりとお金がかかっている着座感です。乗車定員は5名で、実際フル乗車はイメージしずらいですが、新型は中央部のシートベルトもシート本体に内蔵させる方法に切り替えました。従来は天井からベルトが伸びてくる方式でしたが、実際これは装着が本当に面倒なので安全基準への対応も含め、これらが改善された点は高く評価できます。

快適装備やADASも一気に進化

新型ルーテシアでは快適性や先進運転支援システムであるADAS機能も一気に進化しました。

昨今では軽自動車にも採用が増えている電動パーキングブレーキやACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の標準装備化はもちろんですが、今回新たに採用された7型液晶パネルを搭載する「EASY LINK」に注目です。

いわゆるスマホを接続することでカーナビのアプリなどが使える「ディスプレイオーディオ」の一種ですが、ルーテシア専用設計ということもあり、とにかく多機能なのが特徴です。

注目の7インチディスプレイはAppleのCarPlayやGoogleのAndroid Autoにも対応します

スマホと言えばAppleの「CarPlay」とGoogleの「Android Auto」が代表的ですが、もちろんどちらにも対応します。カーナビアプリは携帯電話のGPSやセンサー類を使って自車位置を表示しますが、新型のルーテシアでは特定のアプリ(具体的には筆者が常に使っている「カーナビタイム」)では長いトンネルでも自車位置をロストすることはありませんでした。クルマやディスプレイオーディオの種類によって違いは出るのですが、GPS電波が届きづらいトンネル内で分岐がある際などにはこの精度は非常にありがたいです。

一方でどうしてもスマホアプリがしっくりこない場合でも今回はディーラーオプションでパイオニア製のカーナビが設定されています。価格は26万7,300円とやや高めですが、この7インチディスプレイをそのまま使える点でもメリットはあると感じました。

この他にもADASの設定からエアコンやオーディオなど6名分の設定をカスタマイズし記憶できる「ユーザープロファイル」、そしてエンジン出力やトランスミッションの制御を切り替えることができる「マルチセンス」の設定も画面上で行うことができます。

さらに車内空間の夜間照明をカスタマイズできる「アンビエントライト」機能はBセグメントとしては極めて珍しいものです。色だけでなく照度(明るさ)も調整できるので気分や好みに応じて設定できる点は魅力と言えます。

小気味良い加速感に虜になりそう

しっかりとした操舵感は他のBセグメント車とはひと味違うスポーティさも併せ持ちます

前述したようにルーテシアに搭載される1.3L直4ターボエンジンは別の形式名称でメルセデス・ベンツAクラスに搭載されています。最高出力は131PS(96kW)/5000rpm、最大トルク:240N・m(24.5kg-m)/1600rpmで7速のEDCというトランスミッション(ATです)を組み合わせます。

今回、一般道から首都高速経由、海ほたるまで走った印象ですが、とにかく小気味良い加速が好印象でした。今回試乗したのは最上位グレードである「インテンス・テックパック」。このグレードのみに17インチのタイヤ&アルミホイールが装着されているのですが、街中ではまだ馴染んでいない部分もあり、乗り心地は少しコツコツとしたものがありました。ただ、これが高速走行時や高めの速度でのコーナリング時ではしっかりと接地している感覚が伝わってきます。

最上位グレードにはスタイリッシュなデザインの17インチのアルミホイールを標準装備します

ステアリング操舵量も少なめで何よりも人工的な軽さが少ない点は国産車も見習って欲しい部分があります。同じプラットフォームを持つ新型ノートには未試乗ですが、いわゆる「味付け」という点ではルーテシアはしっかりとしたものを持っている印象を受けました。

まさに小さな高級車。それでも欲しい最上位グレード

前述したようにルーテシアには3つのグレードが設定されます。

最廉価の「ZEN(ゼン)」が236万9,000円、主力グレードの「インテンス」が256万9,000円、そして最上位グレードの「インテンス・テックパック」が276万9,000円となります。

ZENは受注生産になりますが、それでもACCやLEDライト、さらにステアリングヒーターまで標準装備されます。ただこのクルマの快適性や立ち位置などを考えるとベストバランスはBOSEサウンドシステム(音のバランスが優れています)、前述したアンビエントライトの調整機能やマルチセンスなどを搭載した「インテンス」がオススメです。

ただ筆者としてはさらに20万円出しても「テックパック」が欲しくなります。

理由はACCにプラスして自動車専用道路を走行時に車線の中央を走らせるようサポートする「レーンセンタリングアシスト」はこのグレードにしか設定は無く、さらに他グレードではオプション対応もしていません。

要はこれとACCとの組み合わせは日産の「プロパイロット」と同じなのです。制御の仕方は両社とも異なりますが、これも冒頭に述べたアライアンスのひとつと言えます、同様に「360°モニター」も日産とのアライアンスによるもの。また「レザーシート」や「シートヒーター」もこのグレードのみの設定となります。

インテンスとの価格差は20万円ですが、高速道路を走る機会があり、コンパクトでも上質なクルマに乗りたい人には「価値ある20万円高」と言えるでしょう。

いずれにせよ、クラスレスとも言える「小さな高級車」に仕上がった新型ルーテシアは今後日本市場でもさらに存在感を増していくと思います。

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