菅政権で加速する脱炭素政策 日本でも動き出す洋上風力発電開発、注目の関連銘柄は?

世界中で脱炭素への動きが強まっています。10月の所信表明演説において、菅首相は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする脱炭素社会の実現を宣言しました。

各国が脱炭素を宣言する背景には、地球温暖化への対策もさることながら、環境・エネルギー分野への大規模な資金投入を行うことで、雇用を促進し、コロナ禍による経済への大打撃から一刻も早く回復したいという目論見がありそうです。脱炭素の流れは、コロナ禍で加速したといえるでしょう。

今回は、脱炭素に向けて拡大が見込まれる、再生エネルギーについて考えます。


再エネ比率では欧州が首位

脱酸素の動きは世界の潮流となっています。「50年にゼロ」は、先行する欧州をはじめ、120以上の国や地域がすでに表明しました。世界におけるCO2排出量の約3割を占め、最大の排出国である中国でさえ、「60年にゼロ」を目指し、環境・エネルギー分野で主導権を握ろうとする勢いです。

米国では次期大統領当選確実となったバイデン氏が、2兆ドルの環境投資を公約に掲げており、世界は脱炭素をめぐる大競争時代へ突入したといえるでしょう。

世界各国の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率(19年)は、欧州が39.6%、中国27.6%、日本18.6%、アメリカ18.4%です。

その背景とは

海外で再エネ比率が高まった背景に、技術革新や普及拡大により再エネコストが低下したことが挙げられます。例えば、ドイツの太陽光発電の買取価格は2000年の60.7円/kWh→19年6.8円/kWhまで下落。風力発電の買取価格は2000年の10.9円/kWh→19年6.9円/kWhと低下しました。ドイツのみならず、他の欧州諸国や米国、中国における太陽光発電の価格はすでに火力発電による電力価格を下回るか同水準にあり、風力発電も低下しつつあります。

一方で、日本は太陽光発電12.9円/kWh、風力発電19円/kWh(19年)と東日本大震災後に低下したものの、ドイツに比べ高くなっています。日本は太陽光パネルを置ける平地や、風が一定方向に吹く場所が限られることや、送電網の規制(石炭火力や原子力が優先される)があり、再エネの発電コストは高まる傾向にあります。

太陽電池や風力発電機の世界シェアに目を向けてみると、欧州勢や中国勢が上位を占めます。欧州では世界に先駆けて再エネに注力してきたこと、中国では政府が太陽光パネルや風車への巨額の補助金投入を行ってきたことが奏功していると考えます。

洋上風力の発電能力は19年の8倍へ

ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスは、太陽光発電と風力発電が50年頃までに世界の電力量の56%を占めると予測。更に今後30年間の新電力容量への投資額15.1兆ドルの内80%が再エネや蓄電池に充てられるとしています。

風力発電は、比較的低コストで、変換効率が高く、夜間も発電可能といった面から有望視されています。しかし、陸上での適地が限定されているため、今後普及拡大が期待されるのが洋上風力発電です。

洋上風力発電では、陸上に比べて発電機の設置本数が大規模となるため大容量の出力が可能となります。IEAの調査では、洋上風力発電所の1MW当たりの建設投資額は約4億円(1ユーロ=120円換算)としています。事業規模は数千億円にいたる場合もあり、関連産業への波及効果が大きいといえるでしょう。

国際業界団体である世界風力会議(GWEC)では、洋上風力の発電能力は30年までに19年の約8倍にあたる234GW(1GW:ギガワット=1000MW:メガワット。原発1基で1GW相当)に増加すると予想。中国や日本を含むアジア、欧米がけん引する模様です。なお、風力発電拡大により、今後10年間に90万の雇用が創造されるとしています。

日本では長崎、秋田、千葉が候補地に

日本においては、風車を海底に固定しやすい遠浅の海が少ないこと、浮体式洋上風力発電はコストが高いこと、漁業権を巡る漁協との調整が必要なこと、等から洋上風力発電の開発が遅れていました。

しかし、19年4⽉に再エネ海域利⽤法が施行され、洋上風力発電事業者は30年にわたって海域を占有することができるようになりました。19年7月には開発の第一歩となる「促進区域」として長崎県、秋田県の2地域、千葉県の計4地域が指定されました。現在、事業者を公募中であり、21年度に決定する予定です。

20年7月、経済産業省は30年度までに計10GWの洋上風力発電能力を整備すると目標を掲げました。再エネに関しては、欧州や中国に比べ出遅れ感が否めませんが、菅首相の脱炭素宣言によって流れは一気に変わったと考えます。

最後に、洋上風力発電の関連銘柄を挙げます。今後、脱炭素関連ののニュースフローに注目が集まるでしょう。

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