はやぶさ先生の贈る言葉 未来世代にチャレンジの種

 小惑星探査機「はやぶさ2」が50億キロの旅の末、お土産として小惑星「りゅうぐう」の岩石試料入りカプセルを地球に届けた。はやぶさ2からの玉手箱を受け取ったのは10代の学生も同様。贈り物の中身は、新しいことに挑戦する精神だ。(共同通信=小池真一)

はやぶさ2が地球に帰還し、カプセルを放出するイメージ(JAXA提供)

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 12月6日午前3時前、地球の大気圏に突入したカプセルは、光輝の尾を引きながらオーストラリア南部ウーメラ近くの砂漠に計画通り着地した。テレビやインターネットの中継を見詰めた人々の中に、日本各地の10代の“はやぶさ記者”たちがいた。JAXA(宇宙航空研究開発機構)のはやぶさ2プロジェクトでミッションマネジャーを務める吉川真さんを事前取材していた高校生、中学生たちだ。

 11月14日、インターネットのオンラインで実施された取材会には、高校の天文部など10都府県の自然科学系の部員ら約100人が参加した。はやぶさ2の地球帰還が目前に迫り、多忙な中で吉川さんが登壇。はやぶさ2やりゅうぐうの写真などを示しながら、宇宙科学や宇宙開発の視点でプロジェクトの概要を説き起こし、質疑応答した。

取材会ではやぶさ2について説明する吉川真さん(Zoomより)

 「太陽系が生まれた46億年前の物質があるとみられる小惑星を調べることで、生命の起源にもつながる情報が得られるかもしれない。これが科学的な大きなテーマです」

 吉川さんは、小学生の時から宇宙に夢中になったという。参加生徒たちに向けたその語り口は、まるで好奇心いっぱいの少年のように熱気を帯びた。

 同時に強調したのは、はやぶさ2の文化的な意義だ。文化をめぐる成果について高校生から質問された吉川さんは「小惑星は未知のことばかり。行ってみて初めて分かる。新しいものに出合ったとき、どんなことができるか考えてみる。新たな世界を広げていきましょう、ということです」と語り掛けた。そして、取材会を通じて「未知への挑戦」というキーワードを繰り返した。「自ら新しい挑戦をするきっかけにしていただきたい」と10代の参加者に期待を寄せた。

 (吉川真さんへの取材の様子はhttps://presscentre.netで公開中)

川口淳一郎さん

 教育面を重視する方針は、初代はやぶさから引き継がれた。同機のプロジェクトマネジャーを務め、奇跡の地球帰還を成功させた川口淳一郎さんは「小惑星探査機という、これまでになかった物を作るというのは、これまでなかった考え方を知るのと同じ。はやぶさで好奇心が刺激され、新しい発想について考える機会になってくれたらうれしい」と話した。

 「はやぶさによる学び」を川口さんが提唱するのにも理由がある。イノベーション(技術革新)を強く求めながら社会の旧弊が続き、停滞感さえ漂う日本への危機感だ。「あなたは未来のために新しいことに挑戦しているか」という問い掛けでもあるようだ。

 「『未来への次のページをめくることができないでいる』のではないでしょうか。新しい未知のことに向かって、怖くて踏み出せない、というのが今の日本人ではないですか。でも、めくらなければいけない。次のページをめくる心を、子どもたちに伝えなければいけない」

 JAXAは長期ビジョンとして「フロンティアへの挑戦」を掲げる。「人類の活動領域を拡大させ、知・技術・感動の源として文明の形成に貢献」するとし、将来世代の教育につなげることをうたっている。「はやぶさは、わたしたちの未来のために挑戦している!」と理解した中高生たちは、自らの中に誘発されたチャレンジ精神を披露するように、相次いで新聞を作った。

中学生・高校生が制作したはやぶさ2の新聞

 「今まで自分自身が将来の可能性を狭めてしまっていたことに気づくことができ、また、将来の可能性を広げることができました」(「はやぶさ2の挑戦」より)

 「何事も挑戦しなければ何も始まらないし、分からないと改めて感じました」(「宇宙新聞」より)

 「未知の世界にチャレンジする勇気が、僕たちの未来を明るいものにする」(「太陽系の起源の解明へ」より)

 (中学生・高校生の新聞はhttps://presscentre.netで公開中)

 中高生の新聞は、はやぶさ2からの贈り物に対する感謝の手紙のようでもある。“はやぶさ先生”は、未来世代の心に「チャレンジ精神」の種を植えることに成功したようだ。

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