<大ヒット盤>水森かおり『歌謡紀行19~瀬戸内 小豆島~』昭和歌謡テイストのオリジナル新曲など

 “歌”で旅する歌謡紀行シリーズも2020年で19作目。今回も、本編の14曲中、シングルが6曲、オリジナル新曲が4曲、そしてカバーが4曲という絶妙な構成で、アルバムでは初めて週間TOP20入りを果たした。

 最新シングル『瀬戸内 小豆島』も、お約束(?)の悲恋演歌で、弦哲也のダイナミックなメロディーを、「のどかな波打ち際」や、「手さげ鞄」が吹き飛びそうなほど悲壮感いっぱいに熱唱し、ある意味水戸黄門的な形式美すら感じさせる。他にも『鳥取砂丘』や『五能線』などを収録。

 オリジナル新曲では、昭和歌謡テイストで切ないメロディーの『つつじ吊り橋・恋の橋』など、シングル以上に冒険している部分も見られる。特に、穏やかなバラードの『足羽川(あすわがわ)ざくら』は、胡弓の音も相まって優美な歌唱が堪能でき、中島みゆきのアルバム曲かと一瞬思ったほど意外な出来だ。

 他方、カバー曲を聴くと、『中央フリーウェイ』は、軽快なコブシにより、伊勢志摩あたりを走っていそうな磯の香りがするし、『風の盆恋歌』も、石川さゆりのような決死の覚悟はなく、綺麗な恋の結末が透けてくる。また『豊後水道』では、彼女の朗らかな歌声が失恋後の立ち直りを促すようで上手い。要は、“水森かおり”らしさで、歌の景色が大きく変わるのだ。これぞ歌謡紀行の醍醐味だろう。

 ボーナス曲には、『瀬戸内 小豆島』のエレキがうねる別バージョンを収録。天真爛漫な歌詞カードの写真も含め本作を堪能すれば、自分も揺るがない個性を持ちたいとより強く思うはず。

(徳間ジャパンコミュニケーションズ・通常盤 2909円+税)=臼井孝

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