大学4年間は遠回りではない 常総学院初の“ドラ1”でロッテ入りの法大・鈴木の決断

ロッテから1位指名を受けた鈴木昭汰(中央)【写真:荒川祐史】

母校を表敬訪問、懐かしいブルペンにも足を踏み入れる

4年前の秋。抑えきれない夢への思いを一旦、封じ込め、常総学院・鈴木昭汰はこのグラウンドで法大への進学を決意した。「僕、絶対にプロに行きたいんです」。あどけなさが残る18歳の真っ直ぐな気持ちを受け取った同校・佐々木力前監督は左腕を諭した。プロの評価があまり高くないことを聞いていた。大学で活躍しよう、それは決して遠回りではないんだよ、と肩をたたいた。鈴木はうつむいていた。

月日は流れ、2020年11月19日。22歳になった鈴木は、一回りも二回りも大きくなって、母校へ帰ってきた。先日のドラフト会議でロッテから1位指名。この日、同校の大会議室では理事長や今夏で退任した佐々木前監督が凱旋報告会を準備し、花束を持って、待っていた。「4年前の約束を見事に果たし、精神的にも大きくなって帰ってきてくれた」とねぎらった。

大学進学後、鈴木の4年間は決して順風満帆ではなかった。1年生から東京六大学リーグで登板したが、その後は不振に陥り、2年は出場なし。同学年の投手が着実に成績を収める中で不安が先行した。「絶対にプロになる」という強い気持ちが支えたのも事実だが、ひとりよがりになっていたことも否めない。それに気づかせてくれたのが、同期の高田孝一投手(楽天2位)のひたむきに練習する姿や、精神面での成長だった。チームのためにマウンドに立つこと、仲間と一緒に勝利を掴むことの大切さを学び、力で押さえ込むことよりも、ゲームメークする術も覚えた。

全体練習ではチームの輪を大事に。個別ではトレーニングをこなし、球速は10キロアップした。3年生になると自覚が芽生え、4年生には投手リーダーでチームをまとめることに。勝つためには何をするかを上級生で考えた。「大学の野球部では社会に出ても恥ずかしくないようにと礼儀作法も勉強できました」と話していたこともあった。

そして今年、“真夏の”春の東京六大学リーグで法大を優勝に導いた。神宮球場で躍動する左腕を見た佐々木前監督は「4年間、苦しんだ分、まるで水を得た魚のように堂々と投げていた」と目を細めた。鈴木も「大学に進んで良かったと思います」と出会いや環境に感謝した。

「人生の選択は難しいし、決断には勇気がいること。何を選択したかではなく、選んだ道でどう頑張るかだと思っていました。もしも、同じような状況の子がいるならば、そう伝えたいですね」

ドラフト注目の常総学院3年生右腕も今年プロ志望届を出さなかった

日が暮れ始めた頃、鈴木は校舎を出て、野球部のグラウンドへ後輩たちを激励しに行った。今秋の関東大会で準優勝を果たしたナインへエールを送った。記念撮影では、鈴木の後に球児たちが引き締まった表情で並んでいた。この中から、先輩左腕の背中を追って、プロになる選手も出てくるかもしれない。

地元のテレビ局などの取材を済ませると、向かった先は思い出の残るブルペン。それまで“大人になった”鈴木の表情が思わず緩んだ。懐かしさがそうさせていた。

「悔しい思いや4年間、頑張ってきたことが蘇ってきて、とても感慨深い気持ちになりました」

視線の先には3年生の一條力真投手がブルペンで投げ込んでいた。約190センチの身長から最速148キロのストレートが武器。今すぐにでもプロで投げられそうな雰囲気だが、彼はプロ志望届を出していない。投球でも精神的にも、まだ足りないものがある。もう一段階、上のレベルで鍛える必要性を感じ、本人が学校側で相談し、進学を決めたという。一條の投げ込みが終わると鈴木は「僕の高校3年生の時よりも数段、上じゃないですか?」と高度な投球に驚かされていた。

「一條君は自分と同じような形で大学進学になったと思うので、頑張ってほしいと思います」

意外にも常総学院からドラフト1位でプロ入りするのは今回の鈴木が初めてだった。先日、この世を去った名将・木内幸男監督の時代からなかったことを考えれば“偉業”と言っていいかもしれない。新しい扉をこじ開けたことになる。高いレベルに身を置いて、戦い抜いた東京六大学での4年間。技術、精神的にも成長の階段を昇った。

“低かった”評価で肩を落としてから、4年。グラウンドに戻ってきた姿は頼もしかった。鈴木は現在の部員たちと記念撮影。後ろでは後輩たちがその大きな背中を見つめていた。大学、社会人に進むことは決して遠回りではない。志高く持って努力を惜しまなければ、夢は叶う大切さを伝えた。そして、ここからがスタートラインであることも自分に言い聞かせた。人生の決断をしたこのグラウンドで、決意を新たにした。

【動画】この中からまたプロが…ロッテ1位の鈴木昭汰が思い出の常総学院グラウンドに凱旋した実際の映像

【動画】この中からまたプロが…ロッテ1位の鈴木昭汰が思い出の常総学院グラウンドに凱旋した実際の映像 signature

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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