Jリーガーの就活にもオンライン チャットに動画、選手から売り込みも

 新型コロナウイルス感染拡大で、大学生の就職活動にビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」などの利用が当たり前となる中で、サッカー選手の〝就活〟にもオンラインシステムが導入された。日本プロサッカー選手会(JPFA)が2020年12月24日、25日日に開催したJリーグ合同のトライアウトでの試み。プレーの場を求める選手と、戦力を発掘したいクラブの直接の接触が制限された中、感染症の拡大防止以外にもメリットが多い仕組みについて、選手会、開発者の双方に狙いを聞いた。(共同通信=大沢祥平)

 ▽「コロナ禍」を逆手に

 トライアウトは、Jリーグのクラブを戦力外となった選手らが再起を懸け、自らの能力をアピールし、新たな活躍の場を得るための「適正検査」だ。24日はJ2山形を契約満了となった元日本代表MFの本田拓也ら35人が参加。

トライアウトで、アピールする本田拓也=2020年12月24日、千葉県内

 Jリーグや日本フットボールリーグ(JFL)、地域リーグなどのスカウトらが視察する中、試合形式で行った。

 昨年までならスカウトらが興味のある選手に直接、声を掛けていたが、コロナ禍で今年は会場での直接の接触が原則禁止になった。「そもそも、このままアナログでいいのかと疑問を持っていた」。従来は参加選手の申し込みには、主にファクスが利用されていた。JPFAの高野純一事務局長はコロナ禍を逆手にとって現状を打破しようと思案していた。

トライアウトで、アピールする工藤浩平=千葉県内

 ▽対話のハードル下る

 活用したのは、選手とクラブを結ぶ既存のマッチングサイト「PLAY MAKER」のノウハウだ。運営会社の三橋亮太代表にはトライアウトで講話を担当してもらっていた縁があり、両者でトライアウトの関係者専用サイトの作成に取り組むことになった。

「PLAY MAKER」の運営会社の三橋亮太代表

 新設された専用サイトにはチャット機能があり、選手とクラブは自由にメッセージをやりとりできる。高野氏は直接の接触ができた昨年までの課題をこう指摘する。「トライアウトをやった以上、選手は何らかの感触が欲しいが、自分から売り込める人はまれ。

  下のリーグから上を目指しているクラブの関係者はJクラブのようなコネクションが少なく、取る側のストレスもあった」。オンラインで対話のハードルが下がることで、双方にメリットが生まれると高野氏はみる。「クラブは興味を持った選手にすぐにアクセスでき、選手も自分から『どうですか』と売り込むことができる。待ちの姿勢だった選手の〝攻撃力〟がアップする」と説明する。

  ▽下交渉も円滑に

 クラブによって待遇や目標は千差万別。特に、Jリーグ以外のJFLや地域リーグのクラブの情報は限られているのが現状だ。その点を解消するため、参加と視察の申し込みの場を兼ねる専用サイトでは、互いの情報を把握できるように工夫が施された。選手側は希望の契約形態やセールスポイントを明示してアピールし、クラブ側は練習環境や寮の有無などの条件も付記する。

全国地域チャンピオンズリーグの決勝ラウンドで勝利し、サポーターにあいさつするいわきFCイレブン。JFLへの昇格を決めた=2019年11月22日、福島県のJヴィレッジ

 高野事務局長は「ある程度、先に情報を得ていた方がお互いにとっていい。選手は声をかけてもらうのはうれしいが、話を始めてからお金や環境について『何だよ…』となるよりも、お互いに最初から背伸びをしないで話をしてもらった方がいい」と、交渉が円滑に進むことを期待する。

 情報を手軽に閲覧できるため、スカウトは手元のパソコンやスマートフォンで選手のプロフィルを確認しながらプレーをチェックすることも可能だ。動画視聴機能も備えており、現地に来られないクラブ関係者も、トライアウトの様子を見ることができる。

 ▽選手継続の思いに応え

 専用サイトの礎となった「PLAY MAKER」には、1200人以上の選手、70以上のクラブが登録している。運営会社の三橋代表は「お互いに検索をして情報を収集し、最初のコンタクトを生み出す仕組み。選手にとってはいつでも使える代理人のようなサービスでクラブ側からすると、強化支援ツール。属人的なコネクションしかない中で選手を選ぶより、ずっと幅を広げられる」と、その特長を話す。

「PLAY MAKER」についてオンラインで説明する運営会社の三橋亮太代表=2020年12月1日

 代理人を付けていない選手が契約満了後に移籍先を探すのは簡単ではない。一方で小規模なクラブは人材も手段も限られ、選手獲得に骨を折る。そんな両者をターゲットに、年間40~50件のマッチングを果たしている。

 三橋代表は大学卒業後に北信越リーグの長野パルセイロ(現J3)でプレーした経験を持つ。1年のプロ契約満了後、プレーを続ける環境を見つけるのに苦労したのが、マッチングサイトをつくった原点だ。

 「日本のスポーツ界はまだまだ情報の格差が激しい。現役を続けたい意志がある選手と、選手が欲しいチームが、互いに(情報網から)漏れてしまっているのが一番もったいない。一人でも多くの選手の『続けたい』という意思に応えたいと思っています」。

 JPFAと意見交換しながら作り上げたトライアウトの専用サイトにも、同様の熱い思いが込められている。改善を施し、2021年以降もオンライン化を進めていく見込みだ。(おわり)

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