冬野菜 価格低迷で農家苦境 コロナで外食需要減、出荷抑制も

「最高のダイコンができた」と自負する男性の畑で収穫作業をするスタッフ=南島原市深江町

 長崎県内で旬を迎えた冬野菜の市場価格が低迷し、農家が苦境に立たされている。好天で豊作の一方、新型コロナウイルス感染症の影響で外食産業の需要が戻らず、供給過多の状態が続いているためだ。「採算割れどころじゃない」。生産者は厳しい年の瀬を迎えている。
 長崎市中央卸売市場で卸売りを担う長果によると、11月の平均単価(1キロ)はダイコン53円(前年同期比21%減)、レタス40円(同71%減)、ハクサイ39円(同35%減)と低迷。今月も安値が続いているという。例年この時期に野菜の産地が寒冷地から九州に移るはずが、11月以降の好天のため全国各地で豊作。加えて、新型コロナ禍でホテル、飲食店向けの需要が戻っておらず、野菜の行き場がなくなっている。
 JA全農ながさきは今月11日から、国の緊急需給調整事業を活用し、ダイコンの出荷を遅らせる「後送り」をしている。実施は12年ぶり。年末まで出荷量を2割ほど抑制する。収穫せず畑に残した分は、天候次第では傷んで廃棄せざるをえないこともある。担当者は「年明けにどうなるか。(価格が)回復してもらわないと困る」と話す。
 西日本有数の秋冬ダイコンの産地、島原半島。「採算割れどころじゃない。最高のダイコンができたのに、ただ同然」。島原市と南島原市にまたがる約6.5ヘクタールの畑で栽培する農家の男性(66)は、ため息をつく。
 9月に種をまき、丹精込めて育ててきた。11月に出荷が始まり、収穫日には臨時で雇った10人弱と1日500箱(1箱12キロ)出荷する。男性によると、11月上旬の1箱のもうけは345円。下旬になると40円に落ち込んだ。500箱分の1日の手取りは2万円。出荷できなかった分は、たい肥用に回している。国の価格安定事業などで補塡(ほてん)金は出るものの「来てくれた人の給料分もない。金を借りるしかない」と言う。
 農業に携わり50年。雲仙・普賢岳噴火災害の後、基盤整備で農地が広くなった。その分、大型機械を導入して収穫量も増え、自前の選果場を今年増設したばかり。「投資に見合う金が返ってこない」と嘆く。
 同じく安値で苦しい状態が続くレタス農家。島原半島で13年ほど栽培してきた男性(43)も段ボール代、輸送費など経費のほうが上回り、採算割れだ。一部は畑に廃棄した。「今月は雨が少なく寒さも厳しい。この先、小玉になってレギュラーサイズで出せなくなるのも心配」と今後の生産にも不安を抱える。価格が回復するか先行きは見えないが、「安定供給できるよう努力するだけ」という思いは変わらない。低温から守るため、ビニールで畑を覆う作業を進めた。

© 株式会社長崎新聞社