天の川銀河を高速移動する「高速星」の候補を新たに591個発見

発見された高速星候補の位置や軌道を描いた図(Credit: KONG Xiao of NAOC)

中国科学院国家天文台(NAOC)のYin-Bi Li氏をはじめとする国際研究グループは、中国の分光観測用望遠鏡「LAMOST」や欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データをもとに、天の川銀河を高速で移動する高速星(high velocity star)の候補を新たに591個発見したとする研究成果を発表しました。このうち43個は天の川銀河を脱出できるほどの速度で移動しているとみられています。

天の川銀河は中央部分の「バルジ」とバルジを取り巻く渦巻腕が存在する平らな「銀河円盤」、そしてバルジや銀河円盤を球形に取り囲む希薄な「ハロー」といった構造を持っています。天の川銀河の1000億~2000億にも上るとされる星々は銀河の中心を周回しつつもそれぞれ固有の方向・速度で移動しているので、無数の魚が集まった群れのような姿を思い浮かべるのがしっくりするかもしれません。

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こうした星々のなかには他の星よりもかなり速く移動するものがあり、高速星と呼ばれています。発表によると、2005年に初めて見つかって以来15年間で550以上の高速星が発見されてきたといい、今回の研究成果によって既知の高速星の数が2倍に増えたとされています。591個の高速星候補はカタログ化され、インターネット上で公開されています。

研究グループによると高速星の起源は様々で、銀河中心の超大質量ブラックホールに引き寄せられた連星(片方はブラックホールに引き寄せられ破壊されるが、もう片方は加速され弾き出される)や、ブラックホール連星に接近した恒星連星で起きた超新星爆発別の銀河との相互作用といった原因が考えられるといいます。個々の高速星の運動や組成を詳しく調べることは高速星そのものの起源を知ることだけでなく、天の川銀河の歴史やブラックホールの性質などに迫ることにもつながります。

分析の結果、今回特定された高速星候補の大半は銀河円盤の外側に広がるハローの内側(内部ハロー)の恒星系に属しているとされています。このうち14パーセントは金属(水素やヘリウムよりも重い元素)が比較的多い星で、天の川銀河のバルジや銀河円盤で形成された後に何らかの理由で高速星になったか、あるいは天の川銀河の構造が形作られ始めたばかりの頃に形成された星の可能性があるといいます。

また、この14%という低い比率は、ハローの恒星系の大部分が天の川銀河との相互作用によって伴銀河が降着したり潮汐破壊されたりしたことで形成されたことを意味するといいます。研究に参加したNAOCのYou-Jun Lu氏は「超大質量ブラックホールから遠く離れたハローまで、高速星は銀河の広範囲に渡って深い洞察を与えてくれます」とコメントしています。

なお、今回の研究で観測データが用いられたLAMOSTは天体のスペクトル(波長ごとに分けた電磁波の特徴)を取得する分光観測に特化した望遠鏡で、一度に4000個の天体を観測することができます。ガイアは天体の位置や運動について調べるアストロメトリ(位置天文学)に特化した宇宙望遠鏡で、太陽と地球の重力が釣り合うラグランジュ点のひとつ「L2」で観測を続けています。

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Image Credit: KONG Xiao of NAOC
Source: 中国科学院
文/松村武宏

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