元暴走王・小川直也氏に染みついていた〝猪木イズム〟

小川氏と猪木氏の師弟関係は23年にわたる

【取材のウラ側 現場ノート】暮れに〝燃える闘魂〟アントニオ猪木氏(77)と〝元暴走王〟小川直也氏(52)の対談企画に立ち会う機会があった。

2人の師弟関係が始まったのは1997年2月。それから紆余曲折はあったものの、2人の関係はほとんど変わらない。小川さんはコロナ禍前の2月に行われた猪木さんの「喜寿を祝う会」にも駆けつけた。小川さんから「こういう状況だけど、会長はお元気なの? 東スポの企画で直接会わせてよ」と申し出があり、猪木さんも快諾して実現した。

小川さんが「会長! お久しぶりです!」と深々と頭を下げると、猪木さんは満面の笑み。そのまま話しだしたら止まらない。撮影の準備など全く考慮してくれないのも昔から変わらない。猪木さんから時折飛び出す〝アントンジョーク〟も、小川さんは漏らさず拾い続けてくれた。この手の対談は企画した報道の側から〝合いの手〟が入るものだが、何だか2人で勝手に盛り上がりそのままタイムアップとなった。

師弟の間にあった絶妙の間合い。帰り際小川さんに聞いてみると…「あのさ、オレ、会長の付け人、3年やってるんだよ」

そういえば、小川さんがプロデビューしたばかりで「暴走王」になる前のころ、こんなことがあった。数人で食事をしていたのだが、どこからか電話が…。真剣な表情で電話を受けると店の外に出て行き、なかなか帰って来ない。しまいには「ちょっと用事ができた、オレ、先に帰るわ」といつの間にか全部の会計を済ませて立ち去った。

後に別の関係者に聞いたところ、ちょうどその時、猪木さんとあるプロレス関係者の折り合いが悪い場面になっており、小川さんが駆け付けたらしい。それで、その場を収めたのだという。

当時は「柔道の世界王者だった小川に付け人の仕事なんてできるわけない」などと陰で言われていたころ。それでも、師匠に何かあれば「迷わず行けよ、行けばわかるさ!」と駆け付ける。

この23年の間には猪木さんから小川さんへ何度か厳しい言葉もあった。いろいろあった2人だからこそ、わかる「あ・うん」の呼吸。現在のプロレス界ではいまや〝死語〟になりつつあるが、これも「猪木イズム」なのではないかと思う。

(プロレス担当・初山潤一)

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