2021年日本株、最大の逆風はコロナの感染収束

主要な金融商品の2021年相場について専門家に聞く短期集中連載。1回目は、昨年コロナ禍でも日経平均株価がバブル崩壊後の最高値を更新した「日本株」です。

今年の相場はどのように動くと予想されるのか、三井住友DSアセットマネジメントの山崎慧ファンドマネージャーに寄稿いただきます。


株式市場はコロナの影響を受けにくい構造

新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。世界各国で外出・営業制限が強化されており、飲食・観光業の廃業が懸念される状況です。

一方、株式市場は非常に好調でした。昨年の日経平均株価は1991年以来の高値をつけ、より市場全体の動きを示すTOPIXも12月には配当込みでバブル期である1989年の過去最高値まであと3%ほどに迫る局面もありました。米国でも株価指数が軒並み過去最高値を更新しています。

コロナの傷跡が残る実体経済と株式市場の差の原因は何なのでしょうか。一つは業種・規模の構成の違いです。コロナ禍の特徴は、飲食・観光に代表される一部の業界に甚大な悪影響を及ぼす一方、その他のセクターは影響が小さい、もしくはかえってプラスになるという両極端さにあります。

飲食・観光業は個人事業主や中小企業が大半で、そのほとんどは株式市場に上場していません。一方、IT、通信、製薬、金融、製造業、インフラ関連などのコロナの影響が軽微、もしくは追い風となる企業の規模は大きく、軒並み株式市場に上場しています。

2020年3月のように、世界各国で罰則付きの外出禁止令を伴う厳格なロックダウンが実施されれば市場の流動性が枯渇し株価も暴落しますが、逆に言えば市場機能さえ損なわれなければ株式市場自体がコロナの影響を受けにくい構造になっていると言えます。

手厚い政策支援継続で2021年も株式は上昇へ

大規模な金融緩和も株価にとって大きな支えとなっています。感染拡大を受け、日銀は2020年3月に株式ETFの買い入れ額をほぼ倍増させました。

同時期には米FRB(連邦準備理事会)も、2010年から2013年にかけて実施された量的緩和の30倍を超える信じ難いペースで国債の買入れを実施しました。ECB(欧州中央銀行)も、パンデミック緊急買入れプログラムという大規模な資産購入制度を創設しています。

これらの措置は金利低下による資本コストの引き下げを通じて、株式市場を大きく押し上げる要因となりました。

株式の需給も改善しています。米国では家計向け給付金を原資としたスマートフォンアプリによる株取引がブームとなりました。高級レストランや旅行に行けなくなった富裕層が株式市場に資金を投じているとも言われています。

日本でも東証マザーズをはじめとした新興市場を中心に個人投資家の売買が活況を呈しています。一人10万円の家計向け給付金のほとんどが貯金に回ったとの麻生財務大臣による発言は批判を浴びましたが、各種調査で年金受給世帯を含め大部分の家計で収入が変わっていないことが示されています。そう考えると、本来必要のない世帯にも給付金が配られたことは事実で、その一部は株式市場に回ったと見られます。

2021年もこういった状況は変わらないと思われます。ワクチンの供給体制が整うまで時間がかかる中、経済活動には引き続き制限がかけられます。一方、2020年春のロックダウンと異なり、工場などは稼働しています。また、多くの大手企業では在宅勤務の体制が整備されており、上場企業の業績の回復傾向は続きそうです。市場機能も十分に維持されています。

感染が拡大する中では中央銀行による金融引き締めも政治的に困難です。米FRBは2020年8月に、常に最大雇用を目指すように政策枠組みの変更を行い、雇用の改善を理由とした金融引き締めを否定しました。ECB、日銀も2021年を通じて現状の金融政策を続けると見られます。

米FRBは月1,200億ドルの国債とMBS(不動産担保証券)の買入れ、ECBは月1,500億ユーロ程度の国債買入れ、日銀も国債と年6兆円の株式ETFの買入れを続けていますが、これらの政策は2021年も市場に過剰流動性を供給し続ける見込みです。

こうした環境のもとで、株式は2021年を通じて世界的に上昇基調を続けると予想します。日本株もTOPIX配当込みでバブル期の過去最高値を更新する可能性が高く、日経平均株価でも3万円の大台回復が視野に入るでしょう。

最大のリスクはコロナの感染収束

逆説的ですが、株式市場にとっての最大のリスクは新型コロナウイルスの感染収束だと考えています。

これまで複数の製薬会社のワクチンで良好な治験結果が示されています。今後もその他の製薬会社によるワクチンの開発が予定されていることから、2021年の後半にはワクチンの本格的な供給体制が整い始めると考えられます。

これまで実績に乏しいmRNA(メッセンジャーRNA、細胞内で遺伝子によって生成される物質)を用いたワクチンへの警戒感は根強く、世論調査ではワクチンを打ちたくないとの回答が根強くあります。

しかし、感染症を一人が何人に移すかの簡易指標である実行再生産数は欧、米、日でいずれも1.1程度となっています。欧州で確認された変異種の動向が未知数ですが、現状の感染傾向が継続するのであれば、希望者によるワクチン接種だけでも感染を収束に向かわせることが十分可能です。

感染が収束すると金融政策のサポートも徐々に縮小されると見られます。米FRBの債券買入れの減額、いわゆるテーパリングが開始されます。欧州でもパンデミック緊急買入れプログラムが縮小され、日銀のETF買入れもペースが大きく落とされると見られます。

財政面においても、コロナ対策で積み上がった巨額の財政赤字を補填するために各国政府は増税に踏み切ると見られます。その際には、コロナによる被害が小さいどころか追い風にもなったハイテクセクターに代表される大手企業の法人税、富裕層の所得税やキャピタルゲイン税などが対象になりそうです。

2021年1月5日には米ジョージア州で上院2議席の決選投票が行われますが、2議席とも民主党が獲得すると50対50にハリス副大統領を加えて民主党が大統領、下院に続き上院も支配することになります。

そうなった場合、感染収束時のバイデン政権による増税幅はかなり大きくなり、米国のみならず世界の株式市場に大きな打撃になると見込まれます。

株式市場は人類の厚生を意味しない

株式市場は経済の体温計とも言われます。しかし、それは人類の厚生を意味するものでは全くありません。そのことは、依然としてコロナの悪影響が生活に色濃く残る中、各国で株価が上昇し続けていることに如実に表れています。

米サンフランシスコ連銀のデイリー総裁は10月13日の会見で、「実体経済回復の足取りが鈍く国民の多くが依然として失業状態にある中で株式だけが上昇しているのは不公平で、ウォールストリートが勝利しメインストリートが敗北している事例だ」との問題意識を示しました。

一方、「金利を早期に引き上げれば富裕層の一段の富拡大を阻止できるかもしれないが、雇用が悪化しかねない」と苦しいジレンマに陥っていることを吐露しています。

著者も、一個人としては新型コロナウイルスの一刻も早い感染収束を心から強く願っています。しかし、株式市場にとっては支援策縮小や増税による悪影響の方が大きいと考えています。コロナ禍のような状況ではこれまで以上に経済と株式市場をはっきりと分けて考える必要があると言えるでしょう。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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