【ボクシング】有利と見られた田中が井岡に完敗した理由

6R、田中(左)は井岡に2度のダウンを奪われた

注目を集めた昨年大みそかのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチは、王者の井岡一翔(31=Ambition)が同級1位の田中恒成(25=畑中)を8ラウンド(R)TKOで撃破。2度目の防衛に成功し、4階級制覇王者の貫禄を示した。戦前は海外のブックメーカーが軒並み「田中有利」のオッズをつけていたが、田中は「完敗です。歯が立たなかった」。敗因として挙げられるのが「階級の壁」だ。

WBOでミニマム級からフライ級まで3階級を制覇した田中は、昨年1月にフライ級王座を返上して4階級制覇を目指すことを表明。春に前哨戦に臨んでから王座に挑戦する青写真だったが、その後の新型コロナウイルス禍で試合をまったく組めず。結果的に一翔戦がスーパーフライ級の初戦となった。

軽量級の階級ごとの体重リミットの違いは2キロに満たないが、この差は意外に大きい。田中自身もフライ級に上げた最初のノンタイトル戦で苦戦を強いられた。対する一翔もスーパーフライ級での世界初挑戦(2018年大みそか)では完敗。この際はまだスーパーフライ級の体ができておらず、挑戦が予定より早かったためだった。

同級の初戦がいきなり世界戦となった田中は、まさに同じ状況。5、6Rと左フックで2度ダウンを喫し、8Rも左フックを被弾した田中はよろめくように腰が落ちてレフェリーにTKOを宣告された。一翔が試合前から「格の違いを見せる」と言い続け、試合後も「どんな展開になっても負けないと思っていた」と揺るぎない自信を持ち続けられたのは、自身にも階級の壁にはね返された経験があるからだ。

大一番で出た「経験の差」。25歳と若い田中は、この初黒星を糧にしてさらなる進化を遂げられるか。

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