『越年 Lovers』時の流れを描く恋愛アンソロジー

(C)2020映画「越年」パートナーズ

 台湾の女性監督グオ・チェンディが、岡本かの子の短編小説(『越年』『家霊』)を基に描く3つの恋の物語。ほとんど話したことのない同僚から突然ビンタされ、仕返しすべく退職した彼を捜す「シャオラン編」、初恋の女性が自分の幼なじみと別れたと知り、彼女に会うために十数年ぶりに故郷の山形へ戻る「寛一編」、亡き母が営んでいた食堂を整理中に嵐に遭遇し、閉じ込められて手伝いの男性と一晩を過ごす「モーリー編」から成る。

 共通するテーマは、恋愛(の始まり)と時間。タイトル通りいずれも新しい年を迎える話だがそこにとどまらず、今を描いていながら過去を感じさせる3編なのだ。ビンタ、四季や風といった自然の力、乗り物…セリフに頼らないアクション(運動性)を伴う視覚的な描写によって“時間”を演出するグオ監督の手腕が見事。その中でも出色の出来といえるのが、最後のモーリー編である。

 まずは、直前の山形の雪景色から一変する台湾・彰化の草木の緑に魅了されるが、ここで最も存在感を放つのは、風だ。風は雨を窓に叩き付け、牛を空へと吹き飛ばす。かと思えば、自転車で走るモーリーの髪を揺らし、カキの殻に楽器のような音色を奏でさせる。そのカキの殻の風鈴が、同時に時間の流れまでも感じさせるところが本作の真骨頂だろう。繊細なのに力強い、映画ならではの恋愛アンソロジーだ。★★★★☆(外山真也)

監督・脚本:グォ・チェンディ

原作:岡本かの子

出演:峯田和伸、橋本マナミ、ヤオ・アイニン、ユー・ペイチェン

山形・仙台先行公開中、1月15日(金)から全国公開

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