雇用調整助成金 上場企業616社が利用、計上額も増加の一途

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う雇用調整助成金の特例措置は、2020年4月の開始から8カ月が経過した。特例措置が開始された4月から12月までに、雇用調整助成金を計上、または申請した上場企業は616社にのぼることがわかった。11月末の599社から17社増加した。上場企業3837社のうち、16.0%が雇用調整助成金の特例措置を活用したことになる。
 上場616社の雇用調整助成金の計上額は、合計2469億8920万円に達する。11月末の2414億5420万円から55億3500万円増加した。外食、小売業、運送業などの労働集約型の業種を中心に、コロナ禍で雇用維持に苦慮する側面が浮き彫りになった。
 受給額の上位は、コロナ禍で利用者が激減した交通インフラ関連やインバウンド消失に加え、緊急事態宣言下での休業と催事などの縮小を余儀なくされた百貨店、長引く外出自粛のあおりを受けるレジャー、旅行関連が並ぶ。

  • ※本調査は、雇用調整助成金の受給または申請を情報開示した上場企業を対象に集計した(対象期間2020年4月1日~12月31日)。金額、活用や申請の旨を開示資料に記載している企業を集計。

計上額別 1億円未満が約半数、業種によって今後増加が見込まれる可能性も

 計上額別では、最多は1億円未満で279社(構成比45.2%)だった。次いで、1億円以上5億円未満が179社(同29.0%)、10億円以上50億円未満と5億円以上10億円未満がそれぞれ49社(同7.9%)と続く。
 11月末に比べ、構成比では50億円以上100億円未満が0.7%から0.1ポイント、1億円以上5億円未満が28.9%から0.1ポイントそれぞれ上昇した。
 一方、1億円未満が45.6%から0.4ポイント低下し、中堅企業での計上が目立った。
 今後もBtoC業種や受注急減や市場が縮小した業種では、年明け以降も受給の増加が見込まれ、特例措置が一部終了する2月以降の雇用環境に変化が生じる可能性を残している。

 雇用調整助成金の計上・申請を記載した616社の業種別では、社数トップは製造業の242社(計上額551億6150万円)。
 次いで、小売業122社(同463億3790万円)、サービス業117社(同482億6110万円)、運送業41社(同741億5500万円)と続く。
 全上場企業での産業別の利用率では、小売業が34.6%でトップ。次いで、運送業が33.0%、サービス業が21.9%と続き、社数が最多だった製造業は16.2%だった。
 新型コロナが直撃したBtoCの業種で申請、受給している割合が高かった。
 外食関連は54社だった。1月に入り、1都2府8県に緊急事態宣言が再発令された。小売やサービスなどでは再度の時短営業を要請されており、こうした業種は今後、2月末の特例措置の適用期間終了に合わせ、申請企業の増加が見込まれる。

0116雇調金

 2021年の幕開けとともに、政府は首都圏の1都3県を始め、関東、関西、中部、九州の2府5県にも緊急事態宣言を再発令した。また、独自に同様の措置を取る自治体も増えている。
 今回の調査では対象外だが、福岡県では管理していた新型コロナウイルス陽性者の個人情報が、クラウドサービスを通じて流出した可能性が明るみとなった。極めて機密性が高い情報の管理徹底が、あらためてクローズアップされている。雇用調整助成金(雇調金)は、特例措置が終わる2月末を前に、同措置の再延長を求める声が大きくなっている。緊急事態宣言の期間延長も懸念されており、労働集約型産業を中心に先行きへの不透明感は強まっている。
  特例措置では、中小企業は最大100%、1日1人当たり上限1万5000円が助成される。大企業でも従業員の雇用を維持した場合、原則休業手当の4分の3を助成し、上場企業による雇調金の利用も相次いでいる。雇調金の利用・申請が判明した企業は、昨年11月末で599社だったが、12月末では616社に増加した。12月に四半期決算を迎えた企業を中心に、新たに申請する企業が相次いだ。
 新型コロナの新規感染者数は、1月に入り東京都で2000人を超える日も出たほか、年末の外出自粛に伴う宴席、外食需要の急減も重なり、小売やサービス業、また、その関連取引先など実体経済への影響はさらに深刻さを増している。
 厚生労働省は1月8日、1都3県に緊急事態宣言が発令されたことに伴い、1都3県の飲食業など一部の大企業の助成率も中小企業並みの100%に引き上げる方針であると示した。感染者数の推移によっては、経営への影響がさらに長引き、雇用や賃金にも及ぶ可能性もある。
 東京商工リサーチの調査で、2021年に早期・希望退職の募集実施が明らかになった上場企業は1月14日時点ですでに20社判明し、大企業の人員削減がハイペースで推移している。  消費マインドの低迷と雇用維持の板挟みで、業績改善が見込めない企業を中心に再度のレイオフに踏み出す企業が増えることが危惧される。
 2020(令和2)年度の雇用調整助成金の予算額は補正予算、予備費、雇用保険事業等からの充当額を含め3兆5,882億円を計上しているが、今後、現行措置の適用終了となる2月末を控え、申請企業数、計上額ともに大幅に増加する可能性がある。

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