12球団で真の“チャンスに強い打者”は誰? 打撃指標で見る意外な結果は…

日本ハム・中田翔(左)とソフトバンク・柳田悠岐【写真:石川加奈子、荒川祐史】

セイバーメトリクスの打撃指標「WPA」と「Clutch」で検証

野球を科学的に分析することを目指すセイバーメトリクスの分野。一概にこれだけで選手を評価できるわけではないが、野球を統計学的見地から客観的に評価するもので、メジャーリーグでは采配やチーム編成に積極的に取り入れられているものである。

そのセイバーメトリクスの指標の1つに「WPA(Win Probability Added)」という指標がある。これは勝利期待値を基に、選手がどれだけ勝利期待値を増減させたかによって貢献度を評価する指標だ。

例えば、同点の1回裏無死一塁でのツーランは勝利確率を58.3%から73.5%に高め、この差分が打者の「WPA」に加算される。また、同じツーランでも、1点ビハインドの9回裏無死一塁で放つと、勝利確率が33.4%から100%になるため、WPAの変動は0.666となる。一方で併殺に倒れたり、チャンスを潰すと減少は大きくなる。

勝負の分かれ目となる重要な局面での一打ほど加算が多くなる「WPA」。では、シーズンを通して、よりチームの勝利期待値の増加に寄与した“ここ1番に強い”選手はどの選手だったのか。セイバーメトリクスの指標を用いて分析などを行う株式会社DELTAのデータを基に、上位10人を見てみよう。

「WPA」も「Clutch」でも1位だった柳田は球界最強の打者

1 柳田悠岐(ソフトバンク)8.24
2 浅村栄斗(楽天)4.90
3 吉田正尚(オリックス)4.85
4 青木宣親(ヤクルト)4.24
5 レオネス・マーティン(ロッテ)4.11
6 岡本和真(巨人)4.09
7 山川穂高(西武)3.53
8 丸佳浩(巨人)3.50
9 鈴木誠也(広島)3.35
10 西川遥輝(日本ハム)3.07

ソフトバンクの柳田が群を抜く数値をマークしている。WPAは驚異の8.24。WPAの増加分は13.99でトップ。一方で減少分は「5.75」と他球団の中軸打者よりも低くなっており、総じて勝利期待値への期待は大きい。これに続くのは楽天の浅村で、セ・リーグのトップはヤクルトの青木となった。

ただ、パ・リーグで打点王に輝いた日本ハムの中田翔内野手がトップ10の圏外に。中田の「WPA」は0.66で、昨季300打席以上立った打者の中では34位になる。中田は増加分は10.92と多いが、減少分も10.26と多くなっている。リーグワーストの19併殺を喫するなど、振れ幅が大きい結果になっている。

また、日本ハムの大田泰示外野手や楽天のステフェン・ロメロ外野手、楽天の鈴木大地内野手などは打撃成績を見ると好成績だが、こと「WPA」になるとマイナスとなっている。

ただ、この「WPA」はより重要な局面、走者のいる場面で打席が回ってくる中軸の選手が相対的に高くなる。そこで、重要度の高い場面での選手のパフォーマンスを表す「Clutch」という指標も見ていく。

これは、選手自身の働きの中で比較され、重要な場面で普段の力以上にどれだけ“勝負強さ”を発揮するかを表す。普段から打撃能力が高い選手が、重要な局面で相応の力を出した場合は「Clutch」は0になる。普段の打撃成績が優れなくとも、重要な局面で打つような選手の指標は高くなり、重要な局面で普段以上の力を発揮出来るかを表す。

「WPA」と顔ぶれが一変する「Clutch」の上位10人

昨季の「Clutch」の上位10人は以下の通りだ。

1 柳田悠岐(ソフトバンク)2.02
2 高橋周平(中日)1.88
3 山川穂高(西武)1.69
4 栗原陵矢(ソフトバンク)1.36
5 ジェリー・サンズ(阪神)1.22
6 茂木栄五郎(楽天)1.17
7 吉川尚輝(巨人)1.09
8 安田尚憲(ロッテ)1.09
9 ホセ・ロペス(DeNA)1.08
10 ダヤン・ビシエド(中日)0.98

ここでも12球団でトップとなったのはソフトバンクの柳田だった。WPAもトップの柳田は数多く重要な局面で打ってチームの勝利期待値をあげ、尚且つ、チャンスでこそ、より力を発揮した選手と言える。もちろん打撃成績も言うことなしで、まさに、球界でナンバーワンの打者と言えるだろう。

2位以下は「WPA」とは異なる名前が並ぶ。「WPA」でもトップ10に入っていたのは柳田と西武の山川だけ。昨季は打撃不振に終わった山川だったが、それでも重要な局面で打って勝利期待値を上げつつ、なおかつ重要な局面で、それ以外の場面よりも結果を残していたことになる。

2人の他には中日の高橋周やソフトバンクの栗原、阪神のサンズといった“チャンスに強い”という印象を持たれている打者の名前が並ぶ。

一方で、300打席以上立った選手で最も「Clutch」が低くなったのはロッテの中村奨吾内野手で-2.18に。さらにはソフトバンクの甲斐拓也捕手(-2.05)、DeNAから巨人に移籍した梶谷隆幸外野手(-1.97)、ヤクルトの村上宗隆内野手(-1.85)といった名前が並ぶ。こういった面々は指標上では、チャンスで、それ以外の場面より力を発揮できない傾向にあるということになる。(Full-Count編集部 データ提供:DELTA)

データ提供:DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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