「保守分裂」でも「現職が街頭に立たない」コロナ禍の知事選!雪国・岐阜県が今アツい!【5】(フリーライター・畠山理仁)

今回の岐阜県知事選挙に、全くの無所属で立候補しているのが元県職員で薬剤師の新田雄司氏だ。告示日の立候補届出会場に候補者本人がやってきたのは新田陣営のみ。他の3陣営はスタッフが手慣れた様子で手続きを済ませ、すぐに選挙事務所へと戻っていった。

新田氏は立候補届出順を決めるクジで3番を引いていた。しかし、選管から受け取る物品(いわゆる7つ道具)の確認などに手間取り、届出会場を出るのは最後になっていた。

「全部自分たちでやっているから時間がかかってしまって……」

そう説明してくれたのは、立候補届出に同行していた新田氏の母親だ。今回の選挙では広報担当を務めるという。私が街頭演説の予定を聞くと、申し訳なさそうにこう答える。

「これからいろんなアンケートや届出書類を書かなきゃいけないから、いつから街頭演説を始められるかわかりません。今日も第一声を時間があれば県庁前でやることにしていますが、まだ何時になるかはわかりません……」

困った。私は一人で取材に来ている。しかし、候補者は4人いる。当初の予定では県庁から一番近い古田氏の事務所、続いて江崎氏の事務所へ取材に行こうと考えていた。しかし、今、この場を離れたら新田氏を見失ってしまう可能性が高い。

立候補届出の合間に行動予定を聞いても「まだわからない」という。だから私は途中で抜けて別の候補の取材に行こうと考え、携帯電話の番号も教えてもらった。しかし、「今日は携帯電話にかけてもらっても出られないと思います」と言われてしまった。

他の候補の予定はわかっている。一方、新田氏は「美濃加茂市」「郡上郡」という大まかな地域しか決まっていない。時間も読めない。ここで離脱したら、再び新田氏を捕まえるのは至難の業だ。私はすべての手続きが終わるまで待つことにした。

立候補届出書類の事前審査は終了している。書類を出したら「7つ道具」を受け取り、中身を確認する。慣れている陣営はあっという間に荷物を持って外へと飛び出していった。

しかし、新田陣営は違った。テーブルの上に7つ道具を出し、その場で標記に名前を書き始めた。そして運動員用の腕章に一つ一つ名前のスタンプを押していく。斜めにならないように丁寧に押す。それを記者たちが心配そうに見つめる。少し斜めにスタンプが押されると「アッ!」と声を上げる記者もいた。

届出会場のテーブルを使って標記に名前を書く新田雄司氏

そうして待っている間に、他の候補の「第一声」予定時刻はすべて過ぎてしまった。新田氏が届出会場を出たのは、届出開始から1時間以上が経った9時30分過ぎだった。

新田氏は県庁内のロビーで報道陣の囲み取材に応じた後、駐車場へ移動して選挙カーやタスキの準備をした。県庁前で第一声を発したのは10時20分だ。第一声の場所で新田候補を待っていたのは報道陣だけだった。

「おはようございます! 岐阜県知事に立候補しました、新田ゆうじでございます。私は岐阜県職員として11年間、環境行政に携わってまいりました。最前線の現場で、県民の皆様と接し、大気汚染対策や廃棄物の対策といった環境保全に取り組んできました。一方で、少子高齢化や公共施設の老朽化など、岐阜県がこの先、直面する幅広い課題に正面から向き合い、県民目線、現場目線、庶民目線で取り組んでいきたい。こうした思いで、自ら出馬を決めました」

新田氏が出馬表明をしたのは昨年8月18日。4候補の中では一番早かった。しかし、選挙で第一声を挙げたのは最後だった。

私の過去の取材経験に照らしてみると、新田氏は周到に準備をしてきた部類に入る。選挙カーも当日までに準備できているし、ポスターも完成している。選挙公報の原稿もデータで提出していた。10人〜20人の後援会組織も作っている。しかし、それでも選挙慣れしている人とそうでない人との間には大きな差が出てしまう。

ただし、演説は何度も練習した様子がうかがえた。県庁内でのぶら下がり取材と、県庁前での第一声の内容がほとんど変わらなかったのだ。つまり、推敲を重ねた演説原稿を何度も練習して暗記していたということだ。

「新型コロナウイルスの感染拡大は、岐阜県にとって、濃尾大地震、太平洋戦争に次ぐ最大の危機です。病床、資材の確保、検査体制の拡充といった、これまで県が取り組んできた施策をしっかり引き継ぎつつ、情報発信を明確化することに取り組みたい。具体的には、三段階警戒レベルの導入です。緊急事態宣言を特別警報と位置づけ、その下にコロナ警報、注意報を入れた三段階警戒レベルを導入していきたい」

新田候補は「警戒レベルごとに県民にどういう行動を呼びかけるかを明確にする。そうすることによって感染防止と経済活動の両立を図っていきたい」のだという。

 

県民に訴える政策は「住みよいまち岐阜 3つの柱」。「1 子育てしやすいまち」「2 誇れる仕事があるまち」「3 安心できる福祉のまち」だ。

演説の最後には、今回の知事選挙が「保守分裂」と言われることについても述べている。

「今、一部の有力者が候補者置き去り、県民置き去りで代理戦争を繰り広げてきました。今日からは、私たちが政策を訴えていくことによって、県民の手に安定した県政を取り戻す。このことを訴えていきたい。踏み出そう、新しい岐阜へ! どうか皆様、熱いご支持を新田雄司に賜りますようお願いいたします!」

第一声を終えた後、新田候補は報道陣の求めに応じてポーズを取った。撮影のためにマウスガードを外してくれと報道陣に頼まれても「いや、これは外せません」と断った。

報道陣の求めに応じて選挙カーから手を振る新田氏

 

新田候補は県内を選挙カーで回りながら掲示板にポスターを貼り、演説を重ねる。ただし、演説場所の事前告知はしないため、実際に会うのは簡単ではない。今のところ発信はTwitterのみで動画配信もない。それでも最低一日一回は写真付きで活動報告をアップしている。

今回、岐阜県民のために県知事選に立候補した4人は有権者にとって大切な選択肢だ。これまで選挙に行かなかった人たちも、この機会に可能な限り情報収集をしてほしい。そして、自らの貴重な一票を誰に投じるかの判断をしてほしい。

知事選挙は、4年に1度しかやってこない。たった17日の短い選挙期間ぐらいは、政治のことを真剣に考えてもいいのではないだろうか。

 

「保守分裂」でも「現職が街頭に立たない」コロナ禍の知事選!雪国・岐阜県が今アツい!1
「保守分裂」でも「現職が街頭に立たない」コロナ禍の知事選!雪国・岐阜県が今アツい!2
「保守分裂」でも「現職が街頭に立たない」コロナ禍の知事選!雪国・岐阜県が今アツい!3
「保守分裂」でも「現職が街頭に立たない」コロナ禍の知事選!雪国・岐阜県が今アツい!4
「保守分裂」でも「現職が街頭に立たない」コロナ禍の知事選!雪国・岐阜県が今アツい!5

【岐阜県選挙管理委員会事務局・第20回岐阜県知事選挙特設サイト】
選挙公報、期日前投票、政見放送・経歴放送の日時情報あり。

© 選挙ドットコム株式会社