【昭和~平成 スター列伝】千代の富士 北の湖、輪島と揃い踏み「世代交代前夜」

千代の富士は関脇ながら北の湖(中)、輪島(右)の両横綱に負けない存在感

【昭和~平成 スター列伝】大相撲初場所は10日目を過ぎ、いよいよ優勝争いも白熱してきた。初場所は、その年の角界の動向を占う意味でも注目度が高いが、中でも記憶に残るのは、千代の富士が初優勝を果たした1981年。土俵の勢力図が一気に変わった15日間だった。

千代の富士は前年(80年)の9月場所で、自身初の2桁勝利となる10勝5敗の成績を挙げた。新関脇で迎えた11月場所は11勝4敗とし、81年の初場所は大関昇進をかけて臨んだ。なお、11月場所3日目、千代の富士に一方的に敗れた貴ノ花は、この一番で引退を決意したとされ、81年初場所途中に土俵を去った。

年が明けても千代の富士の勢いは止まらない。初日(1月11日)から4連勝で迎えた5日目、過去6回、一度も勝てなかった横綱輪島を右上手投げで下すと「5連勝。最高ですよ。満点もいいところ。ツイていることはツイているものね。4―1ぐらいでいければいいと思っていた。大関? まだまだこれからだ。半分以上あるものな」と上機嫌。この1勝は大きく、大関取りに向けて完全に勢いに乗った。

12日目には横綱若乃花を寄り倒すなど無傷のまま千秋楽を迎え、1敗で追う横綱北の湖にぶつかっていった。本割はつり出しで敗れて全勝優勝を逃したが、優勝決定戦では右の上手出し投げを決める。初の賜杯を手にした千代の富士の姿に、誰もが「世代交代」を強く意識した。

この初場所千秋楽の平均視聴率は52・2%(ビデオリサーチ調べ)と驚異的な数字をマークしており、今なお大相撲中継の最高記録となっている。

そんな大興奮の初優勝から3日後の1月28日午前、春場所の番付編成会議が開かれ、大関昇進が正式に決定。九重親方(元横綱北の富士)とともに使者を迎えた千代の富士は「謹んでお受けいたします。大関の名を汚さぬよう一生懸命頑張ります」と言い切った。

3月場所は11勝4敗、5月場所は13勝2敗といずれも千秋楽まで優勝争いに残る活躍を披露し、迎えた7月場所、14勝1敗で2度目の優勝を果たし、横綱昇進を決めた。9月場所は足を痛めて途中休場となったが、11月場所は12勝3敗で3度目の優勝を果たし、同じ年に関脇、大関、横綱で優勝するという珍しい記録も達成。大相撲に新たな時代を呼び込んだ。 (敬称略)

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