追跡10年! 執念の捜査で逮捕されたアジアの麻薬王 マカオで1晩68億円大損の伝説

世界に蔓延する麻薬の背後には巨大組織が…

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】アジア最大麻薬密売組織「サム・ゴー」の大ボスが、さる22日、オランダで捕まった。

カナダ国籍の中国人ツェ・チロプ容疑者(57=謝志楽、顔写真)は、タイ、ミャンマー、ラオスにまたがるケシの一大生産地「ゴールデントライアングル」を根城に、ヘロインやケタミン、覚醒剤などを生産。アジア・太平洋地域に広く密輸し、日本の暴力団とも結びついているといわれる。オーストラリアでは、国内に流入する麻薬の7割がサム・ゴー絡みと考えられ、当局が10年以上も足取りを追っていた。同国発行の逮捕状を元に、インターポール(国際刑事警察機構)が全世界に指名手配していた。

カナダ、米国、中国、ミャンマー、タイ、それに日本の警察も協力した「クングール作戦」が、一昨年ごろから秘密裏に展開されていたとみられる。ツェ容疑者は、偽名や偽造パスポートをいくつも使い分けていたが、オランダ・アムステルダムのスキポール空港でとうとう捜査網に引っ掛かり、御用となった。

UNODC(国連薬物犯罪事務所)の見積もりだと、この巨大麻薬シンジケートの年間売り上げは170億ドル(約1兆7600億円)。これはツェ容疑者が、一代で築き上げたものだ。

中国・広州生まれで、25歳のころカナダへ移住。地元の中華系ギャング「ビッグサークルボーイズ」の一員となり、麻薬密売で財を成すように。1997年には米国へのヘロイン密輸容疑で捕まり、9年間服役するが、出所後は香港、マカオを拠点に事業を拡大した。サム・ゴー結成は2010年ごろで、主にミャンマー北部シャン州で麻薬を製造していたとされる。

「この地域に君臨していた中華系麻薬王クン・サー(張奇夫)は96年、ミャンマー政府に投降。ツェはその後釜で、現地の麻薬利権に食い込んでいったようだ。2000年代に入り、タイやラオスで麻薬撲滅が進み、製造・密輸拠点としてミャンマーの重要性が高まった。それもツェには追い風に」とはタイ在住記者。

反政府ゲリラが多く国軍もなかなか手を出せない地に、先端的な“麻薬ラボ”を築き、UNODCの調査によると1キロ1800ドル(約19万円)と、廉価での覚醒剤製造に成功。密輸先では価格が跳ね上がり、日本には1キロ58万ドル(約6000万円)で持ち込まれた。原価を低く抑えて荒稼ぎというわけだ。主に紅茶や米などに麻薬を紛れ込ませて密輸。警察や税関に押収されたら、すかさず無料で代わりの麻薬を届ける“配送保証”が裏社会の顧客には好評だったとか。

ツェ容疑者は常にプライベートジェットで移動し、タイ人のスゴ腕ムエタイボクサー8人からなる護衛部隊が付いていたという。自身は麻薬をやらなかったとみられるが、大のギャンブル狂。マカオのカジノで6600万ドル(約68億円)を一晩でスッたという伝説もある。

カジノを通じた巨額マネーロンダリングもやっていて、今回の逮捕容疑はこれ。まずオーストラリアに移送されるが、「組織のネットワークは生きており、トップが入れ替わるだけ」ともささやかれている。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず…1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「バンコクドリーム『Gダイアリー』編集部青春記」(イースト・プレス)。

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