躍進 大崎初の甲子園へ<上> 「及第点」で始動 過酷な“冬”経て心身成長

インターバルでチームメートの手を懸命に引っ張って走る主将の秋山(左)=西海市大島若人の森野球場

 第93回選抜高校野球大会(3月19日開幕)の出場32校に選ばれ、春夏通じて初の甲子園出場権を手にした大崎。少子高齢化に歯止めがかからない西海市の島の公立校は、行政や地域に支えられながらハードな練習を重ねて結果を出した。過去に清峰や佐世保実も全国に導き、2018年に大崎の監督に就任した清水央彦(49)と選手たちの練習や生活を取材し、躍進の背景、チームの将来像を探った。

■答え合わせ
 今月5日、新年の初練習。清水は円陣を組んだ選手に言った。
 「成功する人は常に目的に忠実だからな」
 昨年末に「走る」と告知していた初日。当然、そこを見据えて一人一人が高い意識で年末年始の休み期間を過ごしてきたはず。「答え合わせ」の日だった。昨秋の九州王者の名に恥じない過酷な練習が幕を開けた。
 単に「走る」と言っても、清水が手掛ける冬のトレーニングの厳しさは清峰時代から有名。その日のメニューは選手たちが「断トツできつい」と口をそろえる“インターバル”だ。270メートルを何も持たずに10本、重い丸太を抱えて10本、2グループに分かれて走る。計20本でも簡単ではないが、先頭と最後尾が設定タイム内で走らなければカウントされず、結果的に本数は大幅に増える。
 体力のある選手がいくらトップで走っても、中盤で自分だけ楽をしてもクリアは無理。「この練習を通じてチームがどうあるべきか、どうすれば勝てるのかを分からせている」。そう願うから、清水も一切妥協を許さない。「勝利至上主義だと言われたとしても、そこをやってこその成果がある。あの練習をして良かったと絶対に思うはず」
 栄養補給をしながらも一人また一人と両膝に手を突き、ゴール後に倒れ込む。初めての“冬”に挑む1年生の体を、主将の秋山章一郎ら先輩が支えて次のスタートへ導く。だが、次も、その次もタイムオーバー。一向に本数が減らず、清水は何度も「もうやめれば」と問う。設定秒数を緩めるなどの譲歩はない。

■限界なのか
 「俺のここ(ベルトと服のすき間)手が入るけん握り締めろ。引っ張ってやる」「次、意地で背中押してやる。来い!」-。自らも苦悶(くもん)の表情を浮かべる秋山らが、遅れを取る後輩へ声を張る。見捨てず、諦めない。先に終えたグループの力も借りて一丸で終了。気がつけば、夕日が沈んでいた。走るだけで数時間が過ぎていた。
 「きつそうに演技するやつはすぐ分かる。まだ限界じゃないなって」。練習後、2年生の複数が笑った。それでも後輩を奮い立たせるのは、その意義を理解するから。厳しい中でもリーダーシップを見せる秋山は「全員で束にならないと勝てない」と強調。エース坂本安司は「きついふりをした方がきつくなる。甲子園まで時間がなくて、自分としては焦ってるくらい」と言い切る。
 高校野球の“冬”は年間で最も成長できる時期の一つだと言われる。確かに、バットもグラブもボールもなかったが、強い体と心をつくるための基本中の基本がそこにあった。そんな初練習への清水の評価は-。
 「清峰や佐世保実の時代に比べたら楽だけど、まあまあ。休み中に、そこそこ体を動かしてきているなとは思った。もっとやれないかなと予想していたから」。初めて迎える“春”に向けて、チームは「及第点」でスタートを切った。

 


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