秋ごろがピーク?2021年相場想定を上方修正するワケと高値メド

年明け以降、世界の株式相場は堅調な推移を辿っています。1月最終週こそ大きく調整する場面が見られたものの、相場の地合いは依然強いと判断されます。

1月に発足した米バイデン新政権下で実行される大規模な経済対策への期待がリスクオンの原動力になっていると見られますが、その好影響は日経平均株価を30年ぶりの28,000円台に押し上げるところにまで及んでいます。

年内の株式相場は、強めの上方バイアスを織り込むことが必要になりそうです。その理由を説明します。


ドル建てでの日経平均は最高値更新

日経平均38,915円の過去最高値からはまだ大きな開きがありますが、ドル建てで見た日経平均株価は、直近で1989年につけた最高値を更新しました。こうした象徴的な現象は、ドルで運用する海外投資家にとって、日本株を見直す一つのきっかけになるかもしれません。

もともと、2021年の株式相場には比較的なマイルドな株価上昇を想定していたわけですが、米国の景気刺激策がさらに強化される見通しが高まったことで、株価にも強めの上方バイアスを織り込む必要が生じたと考えられます。

世界では依然として新型コロナウイルスの感染が猛威を振るっている状況ですが、ワクチンの普及とともに、いずれ事態は沈静化に向かうと予想されます。新型コロナの感染拡大で萎縮する実体経済は、今が最悪期であるとみなせば、いずれにしろ経済正常化による株価上昇シナリオは不変です。

相場想定の修正に至った変化

ほんの少し前に作成した2021年の相場想定を修正せざるを得なくなったのは、前提としていた条件が短期間のうちに変わってしまったからです。以下では、その主な要因を2点取り上げます。

(1)米国での「トリプルブルー」実現で米経済対策の規模が拡大

前提条件の変化の最たるものは、米上院選での民主党の勝利です。1月5日に行われた米ジョージア州の上院決戦投票では、争われた2議席でともに民主党候補が勝利し、民主党は上院の主導権を握ることになりました。この結果、米国政治は大統領、上院、下院のすべてを民主党が支配する、いわゆる「トリプルブルー」が確定しました。

昨年暮れまでは、同州の上院決戦投票において共和党が優勢との見方が強く、市場では上院と下院で支配政党が異なる「ねじれ」状態が想定されていました。市場では、「ねじれ」の下でのバランスの取れた政策運営が好感されてきたわけですが、「トリプルブルー」が実現しても、市場心理が悲観に傾くことはありませんでした。

民主党が掲げる増税や規制強化などの政策は実行されるとしても随分先の話とみなされ、目先の大規模な経済対策の実現性が評価されたためと考えられます。実際、バイデン新大統領は1月14日に、家計支援を柱とする総額1.9兆ドルの経済対策を明らかにしました。

さらに、今月には、本丸とされる環境関連投資を中心に追加的な経済対策が発表される見通しで、米経済の早期復活への期待はにわかに高まっています。今後の相場を占う上で、対策の規模拡大は非常に大きなプラス要因といえ、当初の想定以上に株価が押し上げられる公算が強まりました。

中国の力強い回復も

(2)中国の順調な景気回復と半導体業界の好調

1月18日に発表された中国の2020年の実質GDP成長率は、前年比+2.3%となりました。その他の主要国がより大幅なダメージを受けたことを踏まえると、中国の経済回復の力強さには目を見張るものがあります。

2021年に共産党の結党100周年を迎えるとともに、第14次5ヵ年計画をスタートさせる中国には、引き続き順調な景気回復が見込まれます。そうした中国の需要回復は、様々な貿易相手国に恩恵をもたらすと予想されますが、とりわけ、経済的な結びつきの強い日本へのメリットが大きいと考えられます。

日本の工作機械受注の伸び率(前年同月比)は、昨年11月からプラスに反転してきていましたが、それは中国向けの受注回復によるところが大きいと言えます。今後、さらに中国景気が上向いていくことで、日本の製造業には少なからぬ好影響がもたらされるでしょう。

半導体も好調

一方、足元の世界経済において特徴的な動きとして挙げられるのが半導体業界の好調です。米国半導体工業会によると、世界の半導体売上高は2020年11月まで5ヵ月連続して前月比で増加したとのことです。

足元では需要が供給を上回り、半導体不足が生じているとも指摘されています。もともと、コロナ下でのデジタル化の進展によって不況知らずの盛り上がりを見せてきた業界ですが、今後もEV(電気自動車)や5G関連投資の拡大を通じて業界の成長が見込まれるところです。この分野に強みを持つ設備投資関連の日米企業には、業績の上振れが期待されます。

米金利上昇が引き続きリスク要因に

1月に入り、米10年国債利回り(名目金利)は1%台に達しました。本来、金利上昇は株式市場でネガティブに捉えられがちで、急激な金利上昇が株価にとって最大のリスク要因といっても過言ではないでしょう。

足元の株式市場でそうした金利上昇を極端に嫌気する反応は見られていませんが、それは実質金利が比較的低位で安定しているためと考えられます。

米国では、名目金利と実質金利の差で求められる期待インフレ率が、昨年11月以降に上昇基調を強め、最近になって2%台に乗せてきました。インフレ期待の高まりが名目金利を押し上げたとみることも可能でしょう。

インフレ期待は経済の成長期待と表裏一体であり、インフレ期待が共存する限りは、名目金利の上昇をさほど問題視する必要はないのかもしれません。米金融当局も意図せざる金利上昇には適切な対応を取っていくとみられます。ただ、インフレ期待を伴わないなかでの名目金利の上昇、すなわち実質金利の上昇には、今後も注意していく必要がありそうです。

年内の高値メドは33,000円

以上を踏まえた上で、新たに設定される年末想定株価は、日経平均株価が31,000円(年内の上値は33,000円程度)、TOPIXが2,000ポイント(同2,100ポイント)です。また、米国株については、NYダウの年末想定が34,500ドル(同35,000ドル)、ナスダックが14,500ポイント(同15,000ポイント)と、それぞれ従来の見通しから引き上げました。

期待通りに、世界景気の回復が順調に進んだ場合、年終盤には米国では金融緩和政策の出口議論が活発化してくることも考えられます。一方、日本では、秋頃に政局の流動化を嫌気する展開が繰り広げられる可能性もあります。株価の推移は2020年のような年末高ではなく、秋頃に高値を付けた後は、21年末に向けて軟着陸していく姿がイメージされます。

<文:チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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