コロナ禍に思う「地獄の黙示録」狂ってるのは自分なのか、世の中なのか!? 1980年 2月16日 映画「地獄の黙示録」が日本で劇場公開された日

狂っているほどスゴい映画、コッポラ監督の超大作「地獄の黙示録」

コロナ禍の今、人間はどこまで精神状態を正常に保てるのだろう? 冷静さを保ち、努めてそうあるようにはしていけれど、ちゃんとできているのか、自信がなくなることもある。狂ってるのは自分なのか、世の中なのか!

現実の世界では遠慮したいが、映画の世界では狂うことも許される。狂っているほどスゴい映画が見たい…… 映画関係の物書きを生業にしている今も、それは常に思っている。映画にのめりこんだ子どもの頃の、そんな欲求はより強かった。ロードショーやスクリーン、キネマ旬報などの映画雑誌を買い漁って読んでいると、“スゴい” アンテナに必ず何かが引っかかる。『地獄の黙示録』は、そんなアンテナを大いに反応させた映画だ。何かヤバいものを見てしまうような気がする…… そんなムードがプンプンしていた。

説明するまでもないが、『地獄の黙示録』は『ゴッドファーザー』のフランシス・フォード・コッポラ監督がベトナム戦争の狂気を描き出した超大作。1979年のカンヌ国際映画祭では最高賞のパルム・ドールを『ブリキの太鼓』とともに受賞。そういう点でも世の注目度は高かった。

有楽座で先行公開、当時には珍しい全席指定の前売制

1980年の日本公開を間近にして、映画雑誌は一斉に特集を組んでくる。その盛り上がりは当時中学生だった自分にも確かに感じられた。ヤバいほどスゴい映画らしい! 戦闘シーンへの期待は場面写真を見ただけでも高まったし、潜伏していた沼から顔を出す主人公ウィラード大尉(マーティン・シーン)の写真も、顔面の光沢とともに異様な迫力を感じさせた。これは見ないとイカン!

しかし田舎在住者の宿命で、地元の映画館での上映は先のことになる。東京では2月16日より、有楽座という当時の大劇場一館のみで4週間限定公開され、その後に全国公開になるという。有楽座での先行公開は全席指定の前売制。シネコン文化が根付いた今では座席指定は当たり前だが、この頃は珍しい上映形態だった。そして、それがこの映画の特殊性を際立たせることにひと役買っていた。

最初と最後に流れるザ・ドアーズ「ジ・エンド」のインパクト

東京公開から3か月、全国公開から2か月遅れて、オラが町の映画館にも『地獄の黙示録』がやってきた。当時中学2年の自分は喜び勇んで足を運ぶ。いや、確かにスゴい映画だった。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が鳴り響く中での爆撃シーン、さらに続く戦火の下でのサーフィンの場面と、戦争という狂った事態を大いに体感させてくれた。

後半になるとアクションは消え去り、祖国を捨ててジャングルの奥地で自分の王国を築いたカーツ大佐(マーロン・ブランド)と、彼を暗殺する命を受けているウィラード大尉の会話が物語の主体となる。中2の頭には理解しがたい禅問答のようでもあったが、カーツという人物が戦場で地獄を見た果てに何かを悟ったことは理解できた。カーツは狂っているのだろうか…… むしろ、戦場でのストレスを溜め込んでつねにピリピリしているウィラードの方が狂っているのでは…… 答は複数あるのだろう…… そう思えただけでも、やはりスゴい映画だった。

しかし、何よりインパクトがあったのが映画の最初と最後で流れるザ・ドアーズの名曲「ジ・エンド」だ。“名曲” と書いてはみたが、当時の自分には初めて聴く曲。サイケデリックロックという言葉も、まだ知らない。呪術的な響きがとにかく延々と続く。そしてパンフレットを読んで知った、その歌詞。

 父さん、俺はあんたを殺したい
 母さん、俺はあんたとやりたい

答えはわからない… だけど先に進むしかない、ウィラード大尉のように

14年ほどの人生で考えたこともない言葉だった。これも狂気の発露なのだろうか 答えはわからない。しかし、この世界は自分が思っているよりも広く、自分が思っている以上に多くの思考がある。それを自分の中に収めることができたという意味で、大きな意味となった。もちろん、それはスゴい映画=『地獄の黙示録』で描かれた狂気を含めて。

2021年の今、政府の対策を含めて、太平洋戦争時のようだと論じる声もあり、世はある種の戦争状態だ。いろいろな人がさまざまな声を上げ、メディアもSNSも混沌状態。正直、「コイツ、狂ってるなあ」と思ってしまう声もないではない。なにぶん “敵” は、いまだ人類には制圧できていない未知のウイルス。正しい答はやはり、わからない。わからないなりに、ウィラード大尉のように警戒し、思考して、ときにイライラしつつも先に進んでいくしかないのだろう。

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