レンジローバースポーツSVR 「最強モデル」カーボンファイバー仕様の“乗り心地”

ジャガー・ランドローバーには、ラインナップ中でもっともスポーティで豪華で、そして最強といった特別なモデルを製作するビスポーク部門「SVO(スペシャル・ヴィークル・オペレーションズ)」があります。そこからリリースされるモデルには「SVR」というエンブレムが与えられ、特別感満載なのです。今回はその中でもとくにゴージャスにして最強モデルに試乗しました。


装備も値段も最強級

ジャガーでもランドローバーでもSVRというエンブレムが貼られたモデルは、すべての部分でブランドを代表する最強モデルということになります。例えばメルセデスならばAMGといったところでしょう。今回のテスト車両は、そんな中でも軽量化のために、全身にカーボンファイバーをまとった仕様です。

カーボンという素材の特長ですが、鉄と比較すると引張強度が約10倍という高強度でありながら比重は約1/4と超軽量です。軽量も重要な性能のひとつと言われるクルマにとって、フルカーボンのボディは走りのパフォーマンス向上に役立ちます。

4本出しのエギゾーストパイプなど、これ見よがしではないがスーパーSUVにふさわしいリアスタイル

一方で加工や製造が難しいと言うこともありかなり高価になります。例えばランボルギーニやマクラーレンなどにもフルカーボンボディのスーパースポーツがありますが、どのモデルも2,000万円台中盤から3,000万円オーバーがズラリと並びます。

ちなみに試乗車は2020年モデルのカーボンだけでなく、特別カラーや豪華装備など満載です。例えば「SVRカーボンファイバーエクステリアパック」が96万7,000円、「カーボンファイバーインテリア」が23万1,000円、「カーボンファイバーエンジンカバー」が32万2,000円などなど。さすがにフルカーボンボディではないですが、ざっと見ただけでも150万円あまりのカーボンに関するパーツが装着されていることになります。

これにスペシャルなボディカラーや22インチホイールやシグネチャーエンターテインメントパックなどなど満載状態で、総額592万3,000円のオプションがテスト車両には装備されています。それにしてもオプションだけで国産プレミアムカーが購入できるほどです。もちろんこのオプション価格が、ベース車両の1,723万円にプラスされることになるのです。

インテリアにもカーボン素材が

ベース車両のレンジローバー・スポーツSVRに搭載される5リッターのV型8気筒エンジンは575馬力を発揮します。もはやこれほどのパフォーマンスがあれば「軽量化なんて」と、元も子もないことを考えながら、乗り込みます。ところがここで、走らせる前にもうひとつの魅力に心がやられます。レンジローバーのラインナップ、とくに上級モデルのインテリアと言えば、独特の上質感をもって乗る人に迫ってきます。「やはり英国車の伝統はいまだ健在」といえるほど魅力的なキャビンに誰もがレンジローバーの伝統の技を感じます。スイッチもカーボンパネルもレザーも、すべての手触りがしっとりとしているのです。

華やかさと気品を両立したランドローバー伝統のインテリア

さらに上手いなと感じるのは各素材の使い分けとレイアウトが絶妙といえます。どのパーツも他のパーツをじゃましないというか、計算された配置によってスーパースポーツでありながら、気品のようなものさえ感じるのです。

もちろんカーボン仕様ですから、インテリアにもカーボン素材が使われていますが、それをことさらにひけらかすようなこともありません。ちょうどいい塩梅(あんばい)で自己主張しながら、室内の雰囲気を盛り立てているのです。レザーの香りもいい、どこをとっても手触りはしっとり、緻密な作り込みのスイッチの操作感の優しさなど、これが本当のプレミアムと表現したくなる気品あるキャビンにやられてしまうのです。

センターコンソールにもカーボンがしっかりと装備されています

ひょっとすると575馬力という高出力も、このキャビンのお陰で「試さなくてもいいや」などと、思ってしまいそうになるのです。でも、そんなほんわかした気分もエンジンをスタートさせ、後方から低重音のエンジン・サウンドが聞こえてくると、ちょっぴりやる気になってきます。

座った途端に体を包み込むようにフィットするバケット・シートは、SUVのシートと言うより、フェラーリやポルシェ、ランボルギーニあたりの車高の低いスーパースポーツに装備されていても似合いそうです。ところがフロントウインドから前方を見ると目線がずいぶんと高い。ここで体にメモリーされている、スポーツカーとは少し違った風景が広がります。

力強く、そして高級な走り

さっそく8段ATのシフトセレクターをドライブに入れると、ゴクンと小さなショックを感じてスタンバイ完了です。とは言ってもここは市街地ですから、アクセルをそっと踏み込んでスタートします。なんともすんなりと、凶暴さなど微塵も見せることなく走り出します。スポーツやオフロードとか、いくつかドライビングモードは選択できるのですが、ここではもちろん「オート」モードで走ります。

レンジローバー伝統ともいえる良好な乗り味とシームレスな加速感で東京の町中を走り抜けます。カーボンをまとった見た目は少しばかり派手ですが、乗っているこちらは実に優雅な気分のまま過ごすことが出来るのです。

「もう本当にこれでいいや」と、何度も気持ちが日和りそうになったのですが、せっかくのチャンスですから575psのパワーと700Nmのトルクの片鱗だけでも味わおうと、高速に入ります。料金ゲートを過ぎ、加速区間で一気にアクセルを踏み込みます。5リッターV型8気筒スーパーチャージャーのエンジンが一気に目覚めました。2.5t近いボディだと言うことなど一瞬のうちに忘れるほどの加速感のまま、瞬時に速度制限です。

優しく、しかしガッチリと体をホールドしてくれるシートは長距離でも疲労感は少なくなります

いえ、まだまだほとんどアクセルを踏み込んだ覚えがないというのにこれです。はっきり言ってこの実力をスペックの通りに試すことなどサーキット以外にありませんが、圧倒的な速さを持っていることだけは十分に理解できるのです。

ハッとして走行モードを見ると市街地などを走ったオートのままでもこれです。首都高速から東名に入ったところでハードな走りを実現してくれる「ダイナミック」モードにセットしました。足はビシッと締まり、硬さを感じますが不快ではありません。ロールも少なめですが、ドイツのSUVなどとくらべるとソフトに感じます。その走りは実に安定感があり、4輪でガッチリと路面をつかんでいる感覚と共に、なんとも極上の安定感ある走りを示します。

さらにワインディングでも、しっかりと粘りながらの硬さを感じながらヒラリヒラリとコーナーを抜けていきます。この時に「これがカーボンの利点なのかなぁ」と感じさせてくれる場面があります。なんとも心地いいフラット感と共に、コーナーを駆け抜けることが出来るのです。重心の高いSUVにとって、軽さは一般のスーパースポーツ以上に効果を感じさせてくれます。

全行程の7割以上の場面でオートモードのままで走ったのですが全体の印象は「なんともジェントリーな走り」でした。でもその根底にあるのはトップレベルの力強さ。その姿を見ているとカーボンというラガーシャツを着た優しきラガーマンという印象を持ちました。

エンジンカバーにもフルカーボンを贅沢に使用しています

そして2021年モデルのSVRにはカーボンエディションが出来ました。価格は1,921万円と発表されていますが、今回試乗した仕様ほどの豪華装備ではありません。どれでもカーボンをしっかりと着込んで、カッコ良く駆け抜けたい人には少しお買い得なモデルのような気もしますが……。と言ったところでふと我に返ったとところで、一瞬にして現実に引き戻されました。

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