探梅

 新型コロナウイルスの感染拡大で長崎市に緊急事態宣言が出てからは、めっきり歩く機会が減り、ベルトの穴が一つ大きくなった。少し体を動かそうと、ウオーキングがてらに梅の花を探した▲俳句に「探梅(たんばい)」という季語がある。長崎市出身の文芸評論家・山本健吉は、春の趣を探り、枝の先にほころびそめた少しばかりの花を見いだすことだと書いている(ことばの季節)▲長崎市丸山町の風情ある細い坂道を上って「梅園身代り天満宮」を訪ねた。こぢんまりした境内の中に立つ梅の木々は、ちらほらと白や薄紅色の花を付けていた。まさに探梅の趣といっていい▲ここは、昨年末に亡くなった作詞家で作家・なかにし礼さんの直木賞受賞作「長崎ぶらぶら節」の舞台として知られる。すぐ近くには作家直筆の題字が刻まれた文学碑もある▲そういえば、寒気に負けず、けなげに咲く梅の花は、小説の主人公である丸山芸者・愛八の生きざまを思わせる。やがて満開になれば気高い香りが漂うだろう▲長崎市の緊急事態宣言はきょう、解除になった。ワクチンの接種もこれから始まる。まだ風は冷たくても、コートに降り注ぐ日差しが日に日に温かさを増すのを感じる。もちろん気を緩めるのは禁物だ。でも、春の気配とともに希望の光が次第に近づいてきている。(潤)

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