コロナ禍での地方移住ってあり?移住者が1.5倍になった霧島市で生の声を聞いてみた

コロナ禍によるリモートワークの推奨で、都心部を抜け出し、地方への移住を考え始めた人が増えました。全国の移住地の中で、抜きん出て人気があるのが鹿児島県霧島市です。一時は「九州エリアの移住1位」になったことでも知られ、2019年以降は他エリアからの移住者が1.5倍以上にも増加しているそうです。

他地域より霧島市に移住された方、そして、霧島市内の中山間エリアで営業しているコワーキングスペースのスタッフに話を聞き、「移住のリアル」に迫りました。


大阪と霧島の2拠点で仕事をする

最初に訪ねたのは、「日本一の大茶樹」と称された霧島市内の大茶樹公園の中に昨年オープンした「年輪堂」という霧島茶サロン。こちらを運営される新里大輔さんは他地域から霧島市にやってきた移住組みの一人です。

昨年オープンの「年輪堂」の前で新里さん

――新里さんが霧島市に移住するまでの経緯をお聞かせください。

**新里:「母が鹿児島出身であるため、幼少の頃から里帰りをしており風土の良さに魅力を感じていたのですが、中でも空港が近く、歴史・自然・食などの魅力が詰まった霧島に強く惹かれていました。大人になり、大阪で企画制作、デザインの会社を立ち上げましたが、念願かなって5年ほど前に移住することにしました。現在も新大阪に事務所があり、住まいの基本は霧島市です。2拠点で仕事をしている状況です。

霧島市は単に田舎ということでもなく、街の機能もあるので本当に便利です」

――周りにも移住されている方は多くいますか?

新里: 「何人かいます。私のように2拠点で仕事をされる方もいますし、完全に霧島市に拠点を移して仕事をされる方もいます。

地元の人たちのコミュニケーションは、ほとんど苦労はないです。全くゆかりのない人間が移住してくるわけですから、最初は地元の人たちも『?』と思われるかもしれません。でも、きちんとお付き合いをさせていただけば、人情味があって、親身に受け入れてくれる方が多いです。近所の方が野菜を届けてくださったり、逆にお返しをしたり。そういうお付き合いは都心部ではできない豊かなコミュニケーションだと思っています」

――インフラはどうですか? 山のほうに行くと「電波が届かない」とか、「風邪をひいたとき、すぐ近くに病院がない」などの不便はないですか?

新里: 「これもほとんどないです。現状は場所によっては確かに電波が届かないところもありますが、私が住んでいるエリアは動画などの大きなデータの容量をやり取りも不便なくできています。また、2021年度中には霧島市内の全エリアに光回線を通す計画があるそうで、より便利になっていくと思います。

中山間地域では病院は少ないのですが、霧島市中心部には総合病院があり、車で数十分で行けます。特に問題は感じていません。ただ、地方特有の事項としては必須なのが車ですね。『車がないと移動ができない』というのは他の地方同様、霧島市も同じです」

霧島市の魅力の底上げをしたい

――新里さんは昨年より、霧島茶サロンとして「年輪堂」をオープンされましたが、この経緯もお聞かせください。

新里: 「霧島茶は、これまでに日本一のお茶に何度も選ばれたことがある銘茶なのですが、残念なことに若い世代では日本茶離れが起こっています。逆に、海外では年々日本茶の人気が上がっていて、霧島茶の評価も総じて高い。こういった『素材は良いのに皆が忘れている、気づいていない』という問題を解決し、霧島茶のブランド価値を上げたいと思い、『年輪堂』を立ち上げました。

「年輪堂」の目前に広がる茶畑の前で新里さん

そう考えると、霧島市そのものも同じことが言えます。霧島市が持つ資源、素材は良いのに、一部の人しか気づいていない。移住を目指す人はあちこちのエリアを必ず見比べるものだと思いますが、そうやって初めて霧島市の魅力を知ることになります。そこは惜しいところです。

私たちみたいに外から来た人間は、霧島市で暮らすことにものすごい満足感があります。でも、地元の人たちにとってはそれが当たり前ですから、どうしても外部へうまく発信できていないように思います。

霧島市の魅力を底上げする一つとして、まずは霧島茶の魅力をさらに高められると良いなと思っています。また、さらに別の分野でも霧島市の魅力が評価されるように活動を行なっていきたいと思っています」

中山間地域にあるコワーキングスペースへ

次に霧島市の中山間エリアに、コワーキングスペースがあると聞き訪ねることにしました。「3rd コワーキングスペース」というスペースで、移住者はもちろん、霧島市において「新しい働き方」を実践する人が利用しているはずだと思ってのことです。

2019年オープンの「3rd コワーキングスペース」

同スペースで働く川原智美さん(左)、正朋子さん(右)

――正直、霧島市の中山間エリアにコワーキングスペースがあることに驚きました。どういった方が利用されるのですか?

川原: 「併設しているカフェは一般の方も利用されますが、コワーキングスペースのほうは、主にデザイナー、カメラマンなどのフリーランスの方が多いですね」

――移住者の方の利用もありますか?

正: 「もちろんあります。日本の各地から移住された方だけでなく、アメリカから霧島市に移住された方など様々です。こういった方々とはコワーキングスペースではない知り合うことができなかったと思います」

川原: 「私たちも鹿児島県内ではありますが、厳密には移住者です。私は鹿児島の大隈出身で、正さんは鹿児島市出身です」

正: 「でも不満は全くないです。温泉はたくさんありますし、地元の食べ物は美味しいものが多いですし。あと意外と夜遅くまでやっているところもありますし。私たちは仕事の都合で霧島市で暮らすことになりましたが、このことから日本の各地から移住者の方が多い理由もよくわかります」

異業種の出会いの場

――都心部は新型コロナウイルスの感染拡大もあり何かと暮らしにくくなっています。その点、自然豊かな霧島市で、こういったコワーキングスペースを拠点にする「新しい働き方」は今後さらに注目されるかもしれません。

川原: 「これからも様々な地域から来られた方々、色んな職業の人たちとの出会いの場として、広くコワーキングスペースを使っていただけると良いと思っています」

霧島市内で「新しい働き方」を実践する人たちの出会いの場でもあるコワーキングスペース

「これからの暮らしのあり方」を見つけられる?

本取材で各所を巡る間の景色も様々に変化し、豊富な食材・温泉などと同様、実に多彩でした。地方移住を考える際、北海道や沖縄といった観光の人気エリアは雪や台風など天候の問題もあるでしょう。その点、霧島市はどのエリアで育った人でもすぐに馴染むことができる、穏やかでありながら豊かな風土のように思いました。

地方移住を考えている方、漠然と「都心部は疲れた」と思われている方、是非一度霧島市を訪れてみてはいかがでしょうか。「これからの暮らしのあり方」を見つけることができるかもしれません。

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