<社説>ワクチン接種開始 丁寧で透明性ある説明を

 新型コロナウイルス感染症の国内でのワクチン接種が17日に始まった。医療従事者への先行接種を経て、4月から65歳以上を対象とした優先接種に進む計画だ。県内では3月上旬から医療従事者への接種が始まる。 コロナ収束の切り札として期待されるワクチンだが、異例の早さで開発・承認が進められた経緯もあり、国民の間に接種への不安があることは否めない。政府は副反応を危ぶむ声に誠実に対応するなど、安全に関する透明性のある情報の提供が不可欠だ。

 前例のない大規模な集団接種となる中で、実施主体を担うのは市町村だ。ワクチン管理や医療スタッフの確保、接種状況を管理するシステムの運用など、多くの実務をこなさなけばならない。

 県は小規模離島について、優先接種の対象となっている高齢者だけでなく、住民全体への一斉実施を国と協議する方針だ。離島は医療体制が脆弱(ぜいじゃく)なことに加え、運び込まれたワクチンが高齢者への接種後に余る可能性があることから、全住民に同時接種が効率的という考え方だ。

 国が定める接種スケジュールを柔軟に運用するなど、地域の実情に応じた取り組みを支援することも混乱の回避に向けて重要になる。

 国内で接種が始まった米ファイザー製のワクチンは、「RNAワクチン」と呼ばれる新しいタイプだ。遺伝子の新技術を駆使することで、通常は数年とされるワクチン開発は短期間で進んだ。

 日本での医薬品の審査も通常は1~2年を要するが、手続きを簡略化する「特例承認」を適用。昨年12月の申請から2カ月で承認に至るスピード審査となった。

 海外の臨床試験によると深刻な副反応の例は少ないが、注射部位の痛みや頭痛、だるさの訴えはインフルエンザワクチンより多い。重いアレルギー反応のアナフィラキシー症状は20万回に1回とされる。何より日本人のデータが十分ではなく、政府は医療従事者への先行接種を通じて副反応の特徴などを収集する。

 政府はコロナワクチンを予防接種法の臨時接種に位置付け、無償で接種を進める。国民には原則として接種の「努力義務」が生じるものの、最終的には自己判断だ。

 スピード優先のあまり、不安や疑問に対する説明がおろそかになれば、国民の理解を得て接種率を上げていくことは難しい。政府には国民との丁寧なコミュニケーションと情報の共有が求められる。

 だが、ワクチン情報の開示を巡り、河野太郎行政改革担当相や加藤勝信官房長官が、輸送に関する取材の自粛を報道機関に要請した。入手過程を含めて国民の命に関わる重要事項にもかかわらず、「知る権利」を軽んじている。

 客観的で公正な情報の提供を果たせるのか。政府の説明姿勢に対する、国民からの信頼度が問われてくる。

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