【MLB】菊池雄星が命運かけた“制球重視”の投球フォーム 思い出す岩隈氏の6年前の言葉

会見に臨んだマリナーズ・菊池雄星(画像はスクリーンショット)

ブルペンで約50球「今までで一番よかったんじゃないかなと」

マリナーズの菊池雄星投手が、キャンプ2日目の19日(日本時間20日)、ブルペンで投球練習を行った。持ち球すべてを交えて約50球。練習後のオンライン会見では「今までで一番よかったんじゃないかなと感じています」と満足感を漂わせた。メジャー3年目のキャンプは、意識を下半身に置いて投げ、制球を重視するフォームを固める意向だ。【木崎英夫】

体重を3キロほど落とした菊池の顔は引き締まっていた。「無駄なものをなくす」という意識で今オフは食生活に気を配り、筋力の低下と筋力トレーニングに影響のない程度の無理のない減量で、投球への効果を狙ったものではないと言うが、一連の投球動作をよりシンプルにした投球フォームに今季の命運をかけている。

昨季は、日本時代からつながる動作解析の専門チームと歩調を合わせ、1年目の反省点となった体の横振りを修正するため、左肘がスムーズに呼応するフォームに改造して臨んだ。昨年7月26日のアストロズ戦では自己最速の98マイル(約158キロ)の直球を投げ込み、速いカットボールを多投するなど、持ち球の「球威と質」を収穫に挙げたが、ストライク率はわずか51%に留まり、初球のストライク率は50.5%だった。真上から投げ下ろすフォームの再調整が必要となった。

オフの課題は明確になった。「1年間コンスタントに自分の思った通りに投げられるピッチングフォーム、コントロールを一番のゴールにしていました」。参考にするため好投手たちの映像を見続けた。ヒントが浮かんだ――。上体の反動で勢いをつけることなくシンプルに投げていることだった。

「特に去年は反動を使って投げていました。なるべく、反動を使わずに自分の体をコントロールしながらですね。去年は意識しないと(左肘が)上がらないという感じではありましたけど、今はある程度安定してきました。逆に今度は下半身を中心になるべく考えたいなというふうに思ってますから」

「創造的な破壊」と公言していた改造フォームだが、思えば、菊池は、昨年9月25日の最終登板となったアスレチックス戦で、封印していた。3年目への模索はあの時から始まっていたのか。

特任コーチ、岩隈久志の存在が見えない力になる

今キャンプには、2018年までの7年間マリナーズに在籍し、昨季限りで巨人で現役を退いた岩隈久志氏が特任コーチとして参加している。すでにメンタル面に関する助言を受けたことを明かしたが、菊池が最も感銘を受けたのは「コントロールを一番大事にしている話」だった。岩隈氏は、バットの芯と軌道を外す、緩急を駆使した投球で日米通算170勝を挙げている。

忘れられない言葉がある。

2015年の8月12日、地元シアトルで岩隈氏は野茂英雄氏に次ぐ日本人投手2人目のノーヒッターを成し遂げた。その試合後だった。開催中だった夏の甲子園で、オーロラビジョンに出る球速表示が観客の気を引いていることについて、岩隈氏はこんなメッセージを発した。

「僕は速いボールを投げるわけじゃない。速いボールを投げて自己満足する世界ではやっていない。いかにコントロールで勝負をするか、どうやって、いかにアウトを取っていくかを考えてやっているので。その結果がこういう形で結びついたので、これがお手本になってもらえたらというふうに思います」

岩隈氏は、かつて楽天に在籍し、東日本大震災から復興を願う思いは強く、「希望」の刺繍を入れたグラブを手にマウンドに上がっていた。岩手県出身の菊池とつながったのも、縁を感じる。菊池は「シーズンが始まるといろんなことが起きますので、その都度、話を聞いてみたい」と、心強い存在との出会いに感謝した。

過去2年連続で黒星が先行し、防御率はいずれも5点台。メジャー3年目へ向けた菊池はその心境をこう表した。

「このチームが好きだし、監督やコーチ、選手とは2年間、一緒に戦ってきた仲間ですから。特に監督はずっと信じてくれているので。今年、来年と、しっかりと数字を残すことは自分の責任として感じています」

メジャーでの適応をずっと待ち続けた周囲の視線はもはやこれまでとは違う。メジャー3年目の菊池雄星に求められるのは、結果しかない。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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