妖怪?神様?上五島地区のカッパ伝承 「サミット」高齢化で活動下火に

青方ダム周辺に設置されたカッパ像=新上五島町青方郷

 長崎県新上五島町の上五島地区にはカッパに関する昔話が伝わっている。人に悪さをする妖怪といったイメージがある半面、水の神として祭られることもある伝説上の生き物。町内では約20年前に地域おこしにつなげようという動きがあったが、現在目立った行事は少ない。カッパに学ぶ意義とは何か。継承活動に取り組む人に話を聞いた。

 同地区を流れる釣道川流域にある青方ダム。その周辺の道路脇に設置された案内板には、こんな伝承が記されている。
 1830年ごろの江戸時代、天保の飢饉(ききん)で青方村は苦しんでいた。村の世話役の前に現れたカッパの助言通り、釣道川などの干潟を堤防で海を締め切り干拓を造成。その後は干ばつでも水に困らなくなった-。
 別の場所にある案内板では、こんな話も紹介されている。子どもたちが溺れかけることが多く、カッパのいたずらではないかと村人が神社を建て安全を祈願。カッパの嫌いなマメ科の植物ササゲなどを植えると、カッパは村人たちに非礼をわびた-。
 ダムの周囲には高さ約30~60センチのカッパの像計約10体が並ぶ。カッパ愛好家が集う「かっぱサミット」が2003年に同町で開かれた際に、住民有志でつくる「上五島町かっぱ村」が町と協力し設置したものだ。

カッパの伝説について記した案内板=新上五島町青方郷

 サミットには、全国の15都道県から参加があり、町民と合わせ約500人がカッパゆかりの場所の散策などを楽しんだ。しかし、「かっぱ村」メンバーは高齢の人が多く、次第に継承活動も下火になっていったという。
 同町青方郷の元小学校教諭で「かっぱ村」のメンバー、坂口忠さん(80)は、サミット開催に合わせ、03年、住民有志が集めたカッパ伝承12編をまとめて冊子を発行。地元の小学校などに千部を配布した。
 坂口さんはそれまでカッパに詳しくなかったが、住民に依頼されて調べてみると、中国では水の神として祭られていることなどが分かり「親しみが湧いた」。現在も年に数回、小学校などに招かれて講話。干拓の助言をしたカッパの逸話などを通して、水や自然の大切さを伝えている。
 同町奈摩郷の政彦神社は毎年、「海の日」(7月第3月曜日)に合わせ海川祭りを開催。子どもたちが水辺で遊ぶ危険性について考える機会となっている。片足で立ってひもを引き合う「カッパ相撲」が恒例行事だが、カッパに興味を抱く子は少ないという。
 吉村政徳宮司(72)は「“ドライ”な現代において(水難など)現実のものと空想の生き物はリンクしづらいかもしれない」としつつ、「人間に害を与えるものや社会の善悪を学ぶきっかけとしても、カッパ伝承を残していくのは大切」と話している。


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