「すごく自分の財産に…」 ロッテ藤岡に響いた平成の3冠王・松中コーチの教え

プロ4年目を迎えるロッテ・藤岡裕大【写真:荒川祐史】

例を見ない激戦区の遊撃 「4年目、しかも社会人卒の4年目なんで…」

プロ4年目を迎える今季、ロッテ藤岡裕大は例年以上に強い気持ちを持って、来たるシーズンへの準備を進めている。

「新外国人も来ますし、新人もいますし、今年ダメだったらもうダメ。そのくらいの気持ちでやらないと、結果もついてこない。4年目、しかも社会人卒の4年目なんで、今年こそは何とかしたいという気持ちでいます」

藤岡は遊撃手として、昨年まで入団以来3年連続で開幕スタメン。シーズン中も主戦力として出場してきた。だが、キャンプイン前、井口資仁監督はレギュラーが決まっているポジションはないと明言。どのポジションも横一線で争わせる方針を示した。

その中でも遊撃は例を見ない大激戦区となっている。藤岡の他にも、福田光輝、松田進、ドラフト3位ルーキーの小川龍成、新外国人のエチェバリアが居並び、さらにはベテラン鳥谷敬、三木亮、平沢大河、西巻賢二、キャンプイン後に右脚を痛めた茶谷健太らも控えている状態。隙あらば、あっという間に居場所がなくなる。

これだけのライバルが揃う中、藤岡が勝負を懸けるのは打撃だ。強肩と思いきりの良さが光る守備も大切だが、守備自慢の選手も多く、差を付けるのは難しい。もっと自分がチームに貢献できる場所――それが打撃だ。

熾烈な遊撃での定位置争いに挑んでいる【写真:荒川祐史】

何度も味わった「あと1点」の悔しさ 「ヒットじゃなくてもランナーを返す」

今季のチームスローガンは「この1点を、つかみ取る。」。さらに、中長期的なビジョン「Team Voice」を発表し、「1点の重み」を監督・コーチ・選手はもちろん、ファンと共有している。

惜しかった。
あと1点が取れていれば。
あの1点を守れていれば。
それで落としてきた白星がいくつある?

こう始まる「Team Voice」を初めて目にした時、藤岡は「チームのテーマですけど、自分に言われているかのように重く受け止めました」と背筋を伸ばした。

「自分はチャンスで打席が回ってきた時、ランナーを返せなかったことがたくさんある。『あそこで犠牲フライを打っておけば』『あそこでピッチャーゴロを打たなかったら』……そういう想いが、あのTeam Voiceを見た瞬間に甦りました」

これまで「あと1点」の悔しさを何度も味わってきた。なんであの球に手を出したのか。なんで1つ前の球を打ちにいかなかったのか。ベンチに引き上げる時、ロッカーに戻ってから、自問自答を繰り返してきた。ただ、「終わってから後悔することは、野球をやっている間はずっと付きまとうもの。逆にその経験はしないといけないし、その経験をさせてもらっているだけ幸せなんだと思います」とも話す。

積み重ねた悔しさを無駄にしないためにも、今季は泥臭く1点を奪いにいく姿勢だ。「ヒットじゃなくてもランナーを返す。少しでもチームが試合を有利に運べるようなことをしてきたいと思います」と話す言葉には力がこもる。

今キャンプでは打力アップに力を注いでいる【写真:荒川祐史】

松中・臨時打撃コーチに師事「技術だけじゃなくて精神的なところも噛み合わないと」

沖縄・石垣島でのキャンプも泥臭く過ごした。平成唯一の3冠王として知られる松中信彦・臨時打撃コーチに打撃指導を仰ぎ、「この時期しか、あそこまで追い込めることはない」とティー打撃などで体に染み込ませた。

「松中さんも積極的にアドバイスをして下さるし、自分の思っていることと一致しているのもあって、すんなりと入ってくる。あれだけの成績を残していらっしゃる方のアドバイスは、すごく自分の財産になります」

具体的にポイントを置いたのは「軸足の使い方」だ。両脚の内側を意識しながら、ボールを押し込むようにバットで捉える。松中臨時打撃コーチのアドバイスは、「もう1つ、ボールを押し込めていない実感があった」という藤岡にピンポイントで響いた。

通算352本塁打、1168打点、首位打者2度、本塁打王2度、打点王3度。子どもの頃、テレビの中で活躍していた“レジェンド”からアドバイスを受け、「技術だけじゃなくて精神的なところも噛み合わないと、ああいう成績は残せない。純粋にすごいな、と感じさせられます」と頷く。

入団以来、チームは少しずつ順位を上げ、昨季はリーグ2位でクライマックスシリーズ(CS)に進出した。今季目指すは優勝のみ。「練習する量が増えたと思います。選手一人ひとりが自分の時間を大切に、有効に使っているのを感じます」。CSで敗れ、日本シリーズに進めなかった昨季の悔しさを、チーム全体が今季の原動力に変えている。

チームを11年ぶりの日本一に牽引するべく、今季はひと味違った藤岡裕大の姿が見られそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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