【MLB】マリナーズ期待の26歳に宿る3000安打の精髄… トニー・グウィンと重なるイチローの姿

マリナーズのタイ・フランス【写真:Getty Images】

タイ・フランスの打撃をサービス監督高評価「タイミング外す変化球にも対応」

マリナーズのスコット・サービス監督は、翌日にパドレスとのオープン戦初戦を控えた27日(日本時間28日)の会見で、指名打者定着を目指すタイ・フランス内野手の打撃を高評価。「タイミングを外す変化球にも対応できるバットコントロールが素晴らしい」と大きな期待を寄せた。【木崎英夫】

実戦形式の打撃練習で、快音を連発したフランスについて、感想を求められたサービス監督は淀みなく言葉を続けた。

「多くの打者は、速い球と変化球を組み合わせ両コーナーと奥行きを突くここのレベルの投手にタイミングが取れずに悪戦苦闘する。でも、彼は(変化球でも)バットをゾーンの中で捉えることができる。好打者になるために必要な、泳がされてもゾーンの中でバットを少しでも長く持っていられる。それだけじゃない。追い込まれたカウントでは右方向へ単打を狙い、状況に応じた打撃もできる。見ていて楽しい打者だ」

サンディエゴ州立大から2015年のドラフトでパドレスに入団したフランスは、マイナーで4年の下積みを経験し、2019年4月26日のナショナルズ戦でメジャーデビュー。大学時代は故トニー・グウィン監督から打撃の指導を受けている。8度の首位打者に輝き、通算3000本安打を記録して、2007年に殿堂入りを果たした安打製造機の門下生、フランスにサービス監督が期待を寄せるのも頷ける。

フランスに話を聞いたのは2年前の春。アリゾナのキャンプ地で亡き師との一番の思い出をこう語っている。

フランスの印象に残るグウィンの言葉、打撃の精髄には触れず

「入部して初めての練習日でした。トニーはこう言ったんです。『私は監督のグウィンだ。もう選手じゃない。もうトニー・グウィンじゃない。君たちが次のレベルにいけるようここで指導をするコ―チだ』って。最初に、浮ついた僕らの目を斥け、共に純粋に野球に取り組もうという彼の意思表明は、18歳の僕に響いた」

フランスの言葉を辿っていると、昨年12月、日本の高校生に指導を行ったイチロー氏とグウィン監督の姿が重なった。

フランスのメジャー初ヒットは、トニー・グウィンが“5.5 hole”と呼ぶ、三遊間をゴロで抜くシングルだった。フランスは右打者だが、恩師の広角打法を象徴する場所への1本は「最も思い出深い宝物」と、サンディエゴの地元記者に語っている。

コロナ禍で60試合制となった昨季途中に、パドレスからトレードでマリナーズに移籍。23試合に出場し、打率.302、2本塁打、13打点を記録。5本の二塁打と1本の三塁打で長打率.453を残した。

今季、不動の指名打者を目指すタイ・フランスはどんな打撃を見せるのか。

画家が紙という枠組みで表現をするように、打者は白線で仕切られた打席で技術を表現する。2.16平方メートルのその空間でフランスが出す1本には、“グウィン監督”と磨いた鋭敏な感覚が宿っている、と言えば穿ち過ぎだろうか。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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