いつ起きてもおかしくない大地震…防災アナリストが説く複合災害から身を守るための心構え

2月の福島県沖地震後、街をパトロールする消防本部の車両(ロイター)

東京・青梅市や栃木・足利市、群馬・桐生市で数日間続いた山林火災は、空気が乾燥していることや広大なエリアに延焼したことで、消防や自衛隊の消火活動も難航した。改めて火災の怖さを痛感させられたが、懸念されるのは大地震との複合災害だ。元東京消防庁消防官で防災アナリストの金子富夫氏が山林火災を教訓に、あるべき“都市防災の心構え”を説いた。

2月21日に足利市で、23日に青梅市で、桐生市で25日に発生した山林火災は大きな被害を出した。いずれも消防や自衛隊ヘリが消火活動に当たったが、すぐ鎮火とはいかなかった。青梅や足利の火災現場に足を運んだ金子氏はこう指摘する。

「青梅の火災は地形的に、約10メートルの風速により火の粉だけが上昇気流に乗って、山体斜面に飛び火延焼したとみられる。一方、足利の火災は火種こそ小さかったかもしれないが、風速風力が相当強かったため、短時間で延焼拡大した」。改めて火災のすさまじさを見せつけられたともいえるが、金子氏が懸念しているのは、大地震が発生した際の複合火災だ。

2月13日に福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生した。この地震の前に宏観異常現象といわれる生物の異常行動が各所で観測されていた。福島県沖の地震後も三宅島で大量のイワシが浜辺に打ち上げられ、原因は分かっていない。宏観異常現象は科学的に因果関係は解明されていないが、大地震の前触れとされる。

首都圏を大地震が襲った際、同時多発的な火災が発生するリスクは免れない。

「東京下町のいわゆる『木造住宅密集地域』は、大規模面積で木造住宅が建ち並び、まるで材木屋の材木が整然としているような町並みになっている。足利や青梅の火災のように強風下かつ湿度が極端に低い時には、急速な火災延焼拡大に至る。導火線に火を放つようなものになる」

各所で火の手が上がれば、消防の手が足りなくなるのは明白だ。都の避難場所の数は、現在213か所指定されている。急速な延焼拡大が発生すれば、避難場所へ向かう避難路も火災や熱風によって利用不可能な事態となる。

「東京消防庁の消防車両は、約500台、消防団車両を加えても約1500台。都内の火災発生想定棟数は約20万棟。単純に東京消防庁の保有ポンプ車数で割ると、消防ポンプ1台あたり約400棟数、消防団消防ポンプ車を加えても約133棟数になります。既に消火は不可能だと理解できるはず」(金子氏)

東京消防庁の場合、通常火災ならば119番通報から早ければ約3分程度で消防活動が可能なほど、迅速な対応をしている。そのため、“安心感”を持たれがちだが、大規模災害時は全く異なる対応となることが認識されていないことを金子氏は危惧する。

複合災害は火災だけでは済まない。

「津波、列車同士の衝突事故、石油プラントの爆発事故、超高層建物の倒壊などネガティブファクターは挙げたらきりがない。できる対策は町内会など身近な地域防災活動しかない。高齢者、子供、障害者などの社会的弱者を素早く避難誘導して命を地域で助けることしかありません。いくら、体裁の良いことを言っても、身近な地域社会の助け合いしかありません。これが結論です」(金子氏)

首都直下地震や南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないとされる。11日で10年を迎える東日本大震災を前にもう一度、防災のあり方を見直す必要がありそうだ。

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