池江の東京五輪選出は…アテネ金メダリストの柴田亜衣氏が占う代表選考会

アテネ五輪金メダルの柴田氏が競泳界の現状を分析した

【The インタビュー~本音を激白~(17)】“一発勝負”への期待値は――。5か月後に迫った東京五輪に向けて競泳陣は代表選考会を兼ねた日本選手権(4月3~10日、東京アクアティクスセンター)に臨む。新型コロナウイルス禍など本番の課題は解消できていないが、各選手は日々のトレーニングに集中している。アテネ五輪女子800メートル自由形金メダリストの柴田亜衣氏(38)が連載「The インタビュー」第15回で選手の現状を分析。さらに大舞台の切符をかけたレースの注目ポイントを挙げた。

――ジャパン・オープン(OP)では15人が五輪の派遣標準記録を突破した(※詳細は別項)

柴田氏(以下柴田)多いんじゃないかなと思いました。今までを振り返ると、この時期に15人も派遣記録を切れていないこともあったし、すごいこと。気軽に海外でのレースやトレーニングに行けずに四苦八苦しているのは間違いないはずですけど、競泳に関しては練習を積めている選手が多いと感じますね。

――同大会には不倫行為で活動停止処分を受けていた瀬戸大也(26=TEAM DAIYA)が出場した

柴田 瀬戸君は試合に出ながらトレーニングを積み、さらに記録を出していく選手なので、長い間試合に出られなかったのは本人の中でもやっぱり不安になる部分があったはず。そもそもタフなので1日4本(2種目で予選、決勝)泳げていたんですけど、そこができていなかった。ですが、今回の結果を受けて課題が明確になったと思うので、そこを詰めていけば1日4本泳ぐ体力面やタイムに関しても向上できると考えています。

――萩野公介(26=ブリヂストン)は400メートル個人メドレーを回避する可能性が浮上する

柴田 萩野君は五輪2大会連続メダリストなので、そこ(400メートル個人メドレー)に対するプライドはすごくある。でも体の状況がロンドンやリオ当時と違うことは本人が分かっているはずなので、ジャパンOPでの結果(※)を見ると200メートル個人メドレーに絞るのもいいのかなと。

――平井伯昌コーチ(57)は「チャレンジできる種目」も選択肢に入れているようだ

柴田 400(メートル個人メドレー)の記録が伸びない大きな要因は気持ちの問題があり、持久力の部分もあると思います。こうした現状を踏まえると、たしかに平井先生も4月を見据えていろんなことを考え、もしかしたら攻め方を変えてくるのかなというのは感じました。このまま苦手意識が解消できなければ萩野君は他の種目も速いので、たとえば200メートル背泳ぎを泳いでみるとか。そういうレースを選ぶのもありなのかなと思います。

――選考会は男子平泳ぎの渡辺一平(23=トヨタ自動車)、佐藤翔馬(20=東京SC)、同自由形の松元克央(24=セントラルスポーツ)らの記録にも注目が集まる

柴田 私自身、頻繁にベストタイムを出すことができない選手で、2月はヘロヘロなタイムが多かった記憶があります(笑い)。ジャパンOPで好タイムを出した佐藤君に北島(康介)杯で日本記録を更新した松元君は楽しみな存在。渡辺君は本調子でないものの、ラスト50(メートル)で落ちているのはトレーニングを継続していれば当然の結果かもしれません。そういう意味で200メートル平泳ぎは佐藤君が日本新、世界新に届くか、渡辺君が仕上げてくるか。日本記録、世界記録決着も期待してしまいます。

――白血病からの完全復活を目指す池江璃花子(20=ルネサンス)は出場するたびに周囲を驚かせる記録を出している

柴田 100(メートル自由形)に関してはもしかしたら(五輪代表に選ばれるのでは)と思うところはありますね。ジャパンOP(50メートル自由形)の記録を見ると、100ももう少しいけるんじゃないのかなと。やはり本人が負けず嫌いだと思うので、選考会となったときにプラスアルファの力を発揮しそうな気がするんです。他の選手もつら
れて女子100メートル自由形決勝はすごいレースになるかもしれませんね。

――2024年パリ五輪を目指しているが、東京五輪も期待できる

柴田 本人の中では24年がメインと思っているはず。しかし彼女の場合、目の前に代表権を得られる大会があり、それに自分が出るとなるとまったく狙わない…とはならないと思うんです。過度な期待が負担になることは百も承知ですが、どこかで期待してしまう部分もある。私が現役だったら嫉妬しちゃうくらいの才能です(笑い)。

――五輪開催に向けて逆風が吹いている

柴田 元選手としては、現役選手は東京五輪を目指していろんなことに気をつけながら練習していると思うんです。不安なニュースが飛び交うこともありますが、大変だなと感じているのは実は私たち周囲の人間だけなのかも。私も現役だったらいろいろな事象に左右されても最終的な着地点は「やるべきことに集中する」だと思います。とにかく純粋に応援したいし、7月の本番はもちろん、4月の選考会も楽しみにしています。

◆15人がクリア ジャパン・オープンで東京五輪の派遣標準記録を突破したのは18人で、実際に出場可能な1種目2人の条件を加えると15人がクリアした。同大会男子400メートル個人メドレーは瀬戸が優勝し、萩野は6位。200メートル個人メドレーは萩野が優勝して瀬戸は8位だった。個人メドレー2種目で五輪代表に内定している瀬戸は、日本選手権で200メートルバタフライの出場権獲得を狙う。また、松元は北島康介杯男子200メートル自由形で1分45秒13をマークして自身が持つ日本記録を更新した。

☆しばた・あい 1982年5月14日生まれ。福岡・太宰府市出身。鹿屋体育大進学後、2004年アテネ五輪では女子自由形2種目で代表入り。同五輪は400メートル自由形で5位入賞、800メートル自由形で金メダルを獲得。女子自由形の金は日本初、競泳女子の金は92年バルセロナ五輪の岩崎恭子以来、12年ぶり4人目だった。08年北京五輪も自由形2種目に出場し、同年に現役引退。現在は講演会や小学生向けの水泳教室を開くなど普及活動を行う。400メートル、1500メートル自由形の日本記録保持者。176センチ。

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