リサ・パートナーズ成影社長 独占インタビュー(前編)不良債権処理はこれから本格化する

 企業倒産は、2020年7月から8カ月連続で前年同月を下回っている。だが、コロナ関連融資やリスケなどの資金繰り支援で凌ぐケースも多い。今後はこうした企業が抱える「過剰債務」への対応が焦点になる。
 東京商工リサーチ(TSR)は、事業再生への投資とアドバイザリーで実績のある(株)リサ・パートナーズ(TSR企業コード: 294431470)の成影善生社長に、コロナ禍の企業経営の現状と展望を聞いた。

-不良債権市場の現状は

 2009年12月に施行された「中小企業金融円滑化法」は倒産抑制に大きく寄与した。(施行に伴う金融検査マニュアル改訂で)金融機関の引当も少なくなった。金融円滑化法で再生した企業がある一方、いわゆる「ゾンビ企業」の問題も浮上した。この10年間、何もできなかった企業は限界が近づいていた。そうした中で新型コロナが発生した。2020年11月末で、コロナ関連融資は40兆円に上り、こうした企業の短期的な資金繰り支援に繋がった。本来であれば、金融機関は不良債権処理の時期に来ている。だが、コロナ禍で抜本再生を債務者に求めにくい雰囲気がある。金融機関が動けないこともあり、昨年1月以降、不良債権投資の市場規模は縮小している。
 このコロナ禍にあり、不良債権は今後増えるだろう。ただ、(経営の)不振企業は今年の半ば頃までは、緊急支援の資金が入っており、まだ耐えられる状況だ。その後、金融機関が支援するか、手を引くかで大きく状況は変わる。政府が追加支援に踏み切るかは未知数だが、(不良債権が)目に見えて増え始めるのは年後半から年明けにかけてであり、本格化するのは来年以降だと思う。
 二つ押さえておくべきことがある。一つ目は金融機関の再編、二つ目は昨年8月の金融機能強化法の改正だ。コロナ禍で地方経済が疲弊しているが、地方経済を立て直すには過剰債務のカットが必要になる。そうなると不良債権がマーケットに出てくる。金融機関の再編は簡単にはいかないが、再編を見据えながら公的資金が注入される。これをどの程度やるかで(不良債権の出方が)かなり変わる。
 今後、債権カットして「生かす」企業と、それができない企業に分かれる可能性がある。何もしないで今までのような(リスケの)延長線上ではますます地方が疲弊する。

-「星野リゾート観光活性化ファンド」を立ち上げた

 コロナ禍の前から地方のホテル、観光旅館では後継者不足もあり、「儲からないのでやめたい」という相談が多かった。当社の地域企業活性化ファンドでも、ホテルや旅館に投資してきたが、観光活性化ファンドは昨年で投資フェーズが終わっていた。
 観光活性化ファンドに代わるものとして、星野リゾートと話がまとまり、2020年10月に組成した。地方では、観光は最大の資源であり産業だ。コロナ禍で廃業が進むと、そこに従事している人がいなくなってしまう。また立ち上げようとしても簡単にはいかなくなる。観光産業を維持していくためにファンドで支援する、それがコンセプトだ。

-事業承継への取り組みは

 当社は旅館ホテルなど観光業の事業再生だけではなく、事業承継のためのエクイティ、ローン、債権買い取り、再生ファンドの運営などを手掛けている。事業承継が難しいというのは債務の問題が大きい。それから経営者保証の問題。債務の整理が最大の課題だ。
 事業承継といっても形は様々。後継者がいない場合は後継者を探す。従業員のために承継をやってほしいというケースもある。IPO(株式公開)を目指すこともある。
 当社の強みは、投融資とアドバイザリー機能を提供できることであり、この機能に、企業、債権、不動産を組み合わせることで、様々な形でソリューションの提供が可能だ。エクイティ・ファイナンスを得意とするところは、それに特化しているケースが多いかもしれないが、当社は不動産、債権などを組み合わせるので、クライアントのニーズに対して柔軟に対応できる。不動産処理が問題でも、当社は不動産領域もあるので対応可能だ。

-「地域企業活性化ファンド」の状況は

 活性化ファンドでの投資フェーズはほぼ終わり、今は出口のフェーズだ。投資先ではコロナ禍を堪えている企業が多い。観光関係が多いが、そう簡単に(状況は)良くならない。苦しい会社はあるが、地域金融機関と協力しながら、事業再生に着手している。例えば、民事再生法を申請した会社などへの支援では、金融機関にリファイナンスをしてもらい、再建している先もある。当社は当該企業のキャッシュ・フローなどの計画を作り、金融機関にリファイナンスに応じてもらっている。
 活性化ファンドの支援を受け、その企業に活力が戻り、地力が出せるかというとそう簡単にはいかない。観光業については新しいファンドを組成するより、「星野リゾート活性化ファンド」を活用する方針だ。

成影社長

‌インタビューに応じる成影社長

―地域金融機関の再編に注目が集まっている

 当面は、地域金融機関の統合・合併よりも、資本参加やアライアンスといった緩やかな連携の動きが中心になるだろう。ただ、中長期的には信金、信組を含めた地域金融機関全体で統合や合併の動きも活発化していくのではないか。規制緩和で地域金融機関が取り組める事業領域が増えつつある。上位の地域金融機関は、特定の分野で他行とも連携しつつ、独自にビジネスの幅を拡げていこうとしているケースが多い。あくまで独立性を維持したアライアンスの戦略が中心になる。当面はビジネスパートナーら外部との連携も進め、ある程度の時間をかけながら、収益の多様化やノウハウの蓄積を図るだろう。
 体力や経営基盤に限りがあり、あまり多くの時間をかけられないような地域金融機関は、統合や合併などの大胆な変革で生き残りを模索しているケースも多いと思う。なかには、徹底したエリア戦略で様々なサービスを展開し、単独での生き残りを目指す金融機関もあるが、事例としては限られる。当局も地域金融機関の再編が阻害されないような環境整備を進めてきている。中長期的には、地域金融機関の再編が進んでいくと考えている。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年3月12日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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