元審判員・小川勝氏が断言 審判の理解を超越する羽生結弦の本当のすごさ

首位発進した羽生結弦(ロイター)

まだまだ“過小評価”されている! フィギュアスケートの世界選手権(スウェーデン・ストックホルム)の男子ショートプログラム(SP)で五輪2連覇の羽生結弦(26=ANA)が106・98点をマークして堂々の首位発進。4年ぶり3度目の世界王者へ大きく前進した。そんな中、全日本選手権4連覇(1983~86年)の記録を持つ元審判員の小川勝氏(56)は「審判は羽生の本当のすごさを分かっていない」と本紙に断言。絶対王者の驚くべき潜在能力とは――。

銀盤の中央に立った絶対王者は腕を組み、ほほ笑みを浮かべた。無観客の会場に軽快なロックナンバー「レット・ミー・エンターテイン・ユー」が流れると、まるでファンの視線を全身で感じるかのように四肢を動かした。

冒頭の4回転サルコー、続く4回転―3回転の連続トーループを着氷させると、後半のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は出来栄え点3・43点を加算。ステップでレベルを取りこぼしたものの、100点超えを果たした後輩の鍵山優真(17=星槎国際高横浜)を上回る得点で貫禄を見せつけた。

試合を終えた羽生は「全日本(選手権)の時(昨年12月)よりもすごく精神的にも安定して、一つひとつ丁寧にできていると思う」と充実の表情を浮かべ、フリー(27日)へ向けて「曲自体、プログラム自体から感じられる背景、皆さんの中に残っている記憶、思い出が少しでも想起させられるように」と話した。

3度目の頂点取りに大きく前進したが、もはや絶対王者は勝敗を超えた存在として世界の頂点に君臨している。その魅力について、小川氏はこう分析する。

「なぜ彼が長年、王者のポジションを保っていられるのか? それは“省エネジャンプ”という、ものすごい技術を身につけているからです。力任せに跳ぶのではなく、踏み切りからランディング、降りるところまで力ずくのエッジで跳んでいない。力任せに跳ぶ人は瞬間的に良くても、数年で消えてしまう」

さらに小川氏は採点する側にも注文をつけて「よくゴルフで力を抜いたほうが球が飛ぶって言われるでしょ。それと一緒で、力を抜いて高い質のジャンプを跳ぶって本当に難しい。机上で学んで見たままの採点をしている審判は、そういう羽生選手のすごさを分かっていない」と話す。

また、羽生に厳しい採点がつけられる傾向について「彼の最高の演技をみんな知っている。その強い記憶があるから、どうしても比較してしまう。そこが採点の難しいところ」とも指摘した。

3連覇がかかる来年の北京五輪は27歳で臨むことになる。とかく年齢的なことを言われるが、小川氏は「省エネジャンプを身につけているから、彼は力が衰えても跳べる。26歳の今も歯切れのいいジャンプだし、引退しても節制すれば40歳で4回転を跳べるでしょう。50歳までプロスケーターをやれるかもしれません」と驚きの未来を予測した。“力を抜く”という見えない技術は選手寿命にも大きな影響を与えているのだ。

今大会を制し、夢の続きは来年の北京へ。絶対王者が挑戦し続ける限り、見る側の楽しみも尽きることがない。

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