動物虐待裁判に被害猫が証人出廷! マレーシア国民が“ネコかわいがり”する背景

多民族国家のマレーシアではイスラム教徒が多い(写真はイメージ=ロイター)

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】人気リゾート・ペナン島であった動物虐待事件の裁判に、被害を受けた猫が“証人出廷”。そのかわいさもあって、マレーシア国民の注目を集めている。

事件は昨年11月15日、世界遺産の街ジョージタウン南部の住宅街で起きた。自宅敷地内に侵入した猫に長さ1メートルほどの鉄棒を投げつけケガさせたとして逮捕、起訴されたのは、中華系マレーシア人の元教師コスモス・チョン・サイフン被告(79)。一方ケガを負ったのは、特定の飼い主がおらず地域住民が共同管理しているメスの地域猫(年齢不詳)で、虐待を受け保護されてから「ベイビー」と名付けられた。

さる18日、「C1」と書かれた証拠品タグを首につけたベイビーちゃんは獣医に伴われ“出廷”した。ケージに入れられ、動きはのろい。なぜなら虐待により体に麻痺が残り、思うように動けなくなってしまったからだ。

地元民に大事にされてきたのは、毛並みのよさからも分かる。目が大きく、なかなか美人なぶち猫だけに、このニュースはツイッターで瞬く間にバズった。「マレーシアの裁判史上、最もかわいい証人」「こんなかわいい猫を虐待するとは許せない」「出廷できても、話すこともできず、被害を訴えることもできない」などのコメントが付き、1万7000回以上もリツイートされた。

さらにはハッシュタグ「#JusticeForBaby」を付けツイートし、サイフン被告に重い処罰を求めるムーブメントも起きている。マレーシア在住邦人が、背景を解説。

「マレーシアは多民族国家で、特に多いのがイスラム教徒。開祖ムハンマドは猫好きだったと言われるだけあって、イスラム教では猫を大切にする。だからマレーシアには、飼い猫だけでなく街のあちこちに地域猫がいて、誰彼ともなく世話をしてかわいがっている。被告に対する視線が厳しいのはそのため」

サイフン被告は「猫を追い払おうとしただけで、虐待の意図はない」と無罪を主張しているが、有罪となれば10万リンギット(約263万円)以下の罰金か3年以下の懲役、あるいはその両方が科される可能性がある。ベイビーちゃんの麻痺の程度を、裁判官はどう判断するのか。判決は4月19日に出る予定だ。

ちなみにマレーシアでは一昨年、妊娠した猫をコインランドリーの乾燥機に投げ込み稼働させ、殺した男に禁錮2年の判決。犯行の一部始終が映った監視カメラ映像が出回り拡散し、国民の怒りを買った。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く」(辰巳出版)。

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