「燈家」―長崎の人の“明かり”に 稲佐山にカフェ 大病機に栃木から移住

栃木県から移住し、ギャラリーカフェ「燈家」を開いた赤坂健史朗さん、伸子さん夫妻=長崎市江の浦町

 長崎市の稲佐山中腹にある古民家(江の浦町)で、カフェを営む移住者の夫婦がいる。一昨年、栃木県から移住してきた赤坂建史朗さん(60)と伸子さん(58)夫妻。ギャラリーカフェ「燈家(あかりや)」には「長崎に暮らす人を照らす“明かり”になりたい」との願いが込められている。
 稲佐山の山頂まで続く登山道路。その途中にある斜面地の階段を下るとおしゃれな雰囲気の看板と築60年のレトロな平屋が見える。ここが2人のカフェだ。
 2人は1989年に結婚。栃木県那須塩原市で建史朗さんはデザイナー、伸子さんは地元観光協会の職員として働いていた。しかし仕事で多忙な日々を送っていた2015年ごろ、建史朗さんを突然の病魔が襲う。咽頭から食道を切除し、声を失った。
 建史朗さんの病気を機に「ちゃんと夫婦で生きていこう」と考えた2人。18年には何年ぶりかの旅行で1週間ほど長崎を訪れた。歴史が深く文化的な風土や斜面地の夜景。建史朗さんの実家がある熊本県に割合近く、栃木より暖かい気候は病気を経験した身にも優しく感じた。長崎を移住先に決めるのに、そう時間はかからなかった。
 仕事を辞めた2人は、自宅の一角で地元の人が集まれるこぢんまりとした店を開きたいと思った。移住相談窓口や空き家バンクを通して見つけた斜面地の一軒家に、19年秋に引っ越し。数カ月かけて改修し、20年4月に店をオープンした。店名は長崎の夜景にちなみ、人々を照らす明かりのような場所でありたいとの願いを込めた。

稲佐山中腹の斜面地にある、「燈家」の入口

 ゆったりとした時間が流れ、長崎港が一望できる店内には10席を用意。建史朗さんがドリンク、伸子さんが食べ物を担当し、水出しアイスコーヒーや自家製パンを使ったホットサンドなどを提供。店はギャラリーも兼ねており、建史朗さんが描いたイラストも展示している。
 次第に地元住民らが訪れるようになり、今ではすっかり地域の憩いの場にもなっている。「住めば住むほど、おおらかで親切な長崎の人たちが好きになっていく」と伸子さんは言う。「新型コロナウイルス禍でも、ほっとしてもらえる『明かり』のような場所になれたらいいですね」。そうほほ笑むと、建史朗さんもゆっくりとうなずいた。
 営業時間は午前8時~午後5時で木、金曜日定休。問い合わせは(電095.894.9118)。

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