開幕から1週間 オトナの事情で…スタンドから子供の姿が消えた

ZOZOマリンのグッズ売り場に並ぶファンの列には子供たちの姿がない

【広瀬真徳 球界こぼれ話】プロ野球のシーズンが開幕してはや1週間以上が過ぎた。

思い起こせば昨年のこの時期は全国に緊急事態宣言が発令される直前。3月末に予定されていたプロ野球の開幕延期は決まっていたが「いつ開幕するか」は予測不可能な状況だった。

当時を思えば今年は恵まれている。新型コロナウイルス変異株による「第4波」への懸念はあるものの、日常生活は続けられている。プロ野球も観客数の上限が決められているとはいえ有観客で開催されている。この現状には野球に携わる者としてうれしい限りなのだが、昨今の球場には懸念材料もある。「子供のファン」が減少している感じがするからだ。

今春のプロ野球開幕はセパともに3月26日金曜日だった。この時期は大半の小中学生は春休み。コロナの影響を考慮したとしても本来なら球場にひいきチームの野球帽をかぶった少年少女の姿があってもいいはず。だが、取材で訪れた楽天生命パーク(3月26~28日、楽天―日本ハム)、ZOZOマリンスタジアム(3月30日~4月1日、ロッテ―楽天)ともに、観客席を見渡すと大多数は大人で、中学生以下のファンは例年に比べ少なかった。主観を避けるべく親しい記者にも確認してもらったが「確かに少ないですね」。目の錯覚ではないだろう。

各球場ともに新型コロナの影響で観客数に上限が定められている。さらに人気のある開幕カードに加え、楽天、ロッテ両球団はチケット価格が需要と供給のバランスに応じて変動する「ダイナミックプライシング」を採用。これに伴い開幕3連戦などの人気カードは高値でも瞬時に完売となり、必然的にチケットが入手困難になることは理解できる。同時にコロナ禍で経営が逼迫する球団側の苦悩も現場で目の当たりにしているため、ファン会員優先やチケット高騰もやむを得ない。こうした複雑に絡み合う事情により子供たちの野球観戦の場が奪われたのだと思われる。

それでも小学生のころ、メガホン片手に球場に足しげく通った世代の人間から見れば今回の光景は一抹の不安を覚える。次世代を担うファンが球場観戦の興味を失えばプロ野球は衰退の一途をたどることになりかねないからだ。

コロナ禍でどの球団も集客イベントは慎重になりがちだが、子供たちの観戦は間違いなく将来に向けプラスに働く。

まだシーズンは始まったばかり。各チームのイベントはこれからが花盛り。コロナの終息が見通せない難しい時期だが、各球団は感染対策を万全にしたうえで子供たちに夢や希望を与えられる場を提供してもらいたい。

☆ひろせ・まさのり 1973年、愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。

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