助けを求めたのに、身柄拘束された あなたの隣で~難民鎖国ニッポン 第2回

 極端に少ない難民認定とともに、国際的に問題視されているのが、難民認定申請者らの入管施設への「収容」です。助けを求めて来日したのに、身柄を拘束されるとは、どういうことでしょうか。連載第2回では、この収容に焦点を合わせます。(共同通信編集委員=原真)

東京出入国在留管理局の前で、外国人の長期収容に抗議する人たち=2019年12月、東京都港区

 ▽無期限の収容

 母国で政府ににらまれた難民は、パスポートを発行してもらうことができず、偽造パスポートで出国することが少なくない。急いで他国の査証(ビザ)を取得し、入国審査を通過するために、渡航目的を偽ることもある。来日した後も、政府機関への不信感から難民申請をためらい、在留期間が過ぎてしまうケースも報告されている。短期滞在をはじめ、就労できない在留資格でも、食べていくために働く人もいる。

 その結果、不法滞在や不法就労を理由に、出入国在留管理庁(入管庁)の収容施設に身柄を拘束される難民申請者が後を絶たない。入管庁は、不法滞在などが疑われる外国人は、逃亡を防ぐために全員収容することを原則としている。これは「全件収容主義」と呼ばれる。

 特に、退去強制令書による国外退去処分が出た後は、入管難民法上、無期限の収容が可能だ。茨城県牛久市の東日本入国管理センターには、7年以上も収容されてきた人がいる。誰を、いつからいつまで収容するのかは、入管庁の裁量で決めることができる。

名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性が死亡したことに抗議し、周辺で活動する支援者ら=2021年3月、名古屋市

 ▽相次ぐ死者

 収容施設は、刑務所と同じように、鉄格子で閉ざされている。もちろん、自由に外に出ることはできない。難民にとっては、母国での迫害を逃れ、日本に保護を求めたのに、収容という「第2の迫害」を受けているに等しい。先の見えない収容生活で、精神的、肉体的に変調を来す人が続出している。

 自殺を含め、収容中の外国人が死亡する事件も、毎年のように起きている。2019年、長崎県大村市の大村入国管理センターで、長期収容に抗議してハンガーストライキをしていた40歳代のナイジェリア人男性が餓死した。今年3月6日には、名古屋出入国在留管理局で、体調を崩していた30代のスリランカ人女性が亡くなった。この女性と面会を重ねていた支援団体によれば、女性は食事を取れず、歩くこともできない状態で、入院を求めていたが、名古屋入管は応じなかったという。

 東京入管では今年2月以降、収容中の外国人ら60人以上が新型コロナウイルスに感染するクラスターが発生した。

 ▽批判され、むしろ長期化

 このような収容について、国連機関はたびたび是正を求めてきた。2020年8月には、不当な身柄拘束について調査する国連人権理事会の作業部会が、難民申請中のトルコ国籍クルド人男性とイラン人男性を日本政府が収容したのは「国際法違反の恣意(しい)的拘禁に当たる」と非難する意見書を採択した。

 東日本入国管理センターから仮放免され、妻と抱き合うトルコ出身クルド人のデニズさん。国連人権理事会の作業部会は、デニズさんらを長期収容したのは「恣意的拘禁」と非難した=2019年10月、茨城県牛久市

 内外からの批判にもかかわらず、長期収容はむしろ増えている。難民支援者らによると、15年ごろまでは、収容は長くても1年程度で、その後は一時的に収容を解く「仮放免」が許可されていた。ところが16年ごろから、1年を過ぎても収容が続くケースが目立つようになる。入管庁によれば、19年6月には、全国で収容されている1253人のうち、1年以上の長期収容が4割を超えた。3年以上も76人いる。

 入管難民法は、国外退去処分になった外国人を収容できるのは「送還可能のときまで」と定めている。航空券を手配するなど、帰国便を待つ期間だけ、逃亡防止のために収容するというのが本来の制度のはずだ。ところが、何年にもわたって収容が続くのが当たり前になってしまっている。

 ▽法務省・入管庁が自ら招いた

 入管庁幹部は「国外退去処分が決まっても、送還を拒否する者がおり、収容が長期化している」と説明する。

 だが、背景には、法務省・入管庁が外国人の管理を強化し、収容に関する方針を転換したことがある。

 10年の法務省内部の通知では、仮放免を活用することで、1年を超える収容を減らすよう求めていた。それが、16年の通知では、東京五輪・パラリンピックまでに、不法滞在者や、送還を拒む者を大幅に減らしていくと宣言。18年の指示では、「送還の見込みが立たない者であっても、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める」と、収容を続けることによって帰国に追い込む方針を明確にした。

 この間、仮放免は大幅に減った。19年には、収容中のハンストで衰弱したため仮放免した難民申請者らを、2週間後に再び収容する例が相次いだ。日本で長く暮らしてきた不法滞在者らを合法化する「在留特別許可」も激減している(注2)。どちらも、入管庁の裁量によるものだ。仮放免せず、在留特別許可もしないなら、収容施設に留め置くしかない。収容の長期化は法務省・入管庁が自ら招いた面を否定できない。

 東京出入国在留管理局に収容されたトルコ出身クルド人の父に母が面会する様子を、小学生の次男が描いた絵。「パパ大好き」とメッセージが添えられている=2019年8月

 (注2)国外退去処分後の仮放免は、ほぼ一貫して増加傾向にあったが、2015年末の3606人をピークに減少に転じ、19年末には2217人だった。その後、コロナ禍で仮放免が増え、20年末は3061人。在留特別許可も、11年の6879件から、19年の1448件まで減った。かつては、日本人と結婚した外国人や、日本で生まれ育った10歳以上の子どもとその親などには、在留特別許可が出るケースが多かった。ところが、2010年代になると、同様の立場の人も許可されなくなった。

(続く)

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