2020年度『後継者難』の倒産状況調査

 2020年度(20年4月‐21年3月)の『後継者難』倒産は、354件(前年度比10.9%増)だった。調査を開始した2013年度以降では、2019年度の319件を抜き、最多件数を更新した。
 代表者の平均年齢は年々上昇をたどり、2019年の平均年齢は62.16歳(前年61.73歳)と高齢化が顕著になっている。代表者が高齢で経営不振の企業の多くは、後継者の育成に手が回らず、設備投資や中長期の経営課題への取り組みも後手に回り、これが成長を阻む要因にもなっている。
 また、代表者が経営全般を担う企業では、代表者の健康問題が経営に影響を及ぼすケースが増加している。
 2020年の休廃業・解散は、倒産の7,773件を凌ぐ過去最多の4万9,698件発生した。このうち、黒字企業は全体の6割(61.5%)を占めた。コロナ禍で先行きが不透明なだけに、黒字企業でも事業承継や後継者問題が経営上の大きなリスクになっている。
 2020年度の『後継者難』で倒産した354件のうち、代表者の死亡は168件(前年度比18.3%増)、体調不良は127件(同16.5%増)だった。この2要因で295件に達し、『後継者難』倒産の8割以上(構成比83.3%)を占めた。
 産業別は、最多が建設業の75件(前年度比15.3%増)。次いで、サービス業他74件(同1.3%減)、卸売業60件(同11.1%増)と続く。
 中小企業の「社長不足」は深刻で、後継者不在の企業は経営内容に関係なく、倒産だけでなく、廃業の可能性が年々、高まっている。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2020年度(2020年4月-2021年3月)の「後継者難」倒産を抽出し、分析した。

2020年度の『後継者難』倒産が過去最多の354件

 新型コロナ感染拡大に伴う政府の緊急避難的な資金繰り支援策で、2020年度の企業倒産(負債1,000万円以上)は7,163件(前年度比17.0%減)と大幅に抑制された。。
 年々、深刻さを増す『後継者難』倒産は、2020年度は354件(前年度比10.9%増)に達して、全倒産に占める構成比も4.9%(前年度3.6%)に広がった。。
 コロナ禍で売上が減少するなか、資金繰り支援策で過剰債務に陥った中小企業が増えている。金融機関は、中小企業の支援に際し、企業の将来性を判断する「事業性評価」を重視しているが、事業性評価では後継者の有無が大きな判断材料の一つになっている。。
 多くの中小企業では、代表者が経理から営業、人事など、あらゆる業務を担いがちだ。さらに、金融機関からの資金調達では個人保証することも少なくない。このため、代表者の病気や体調不良などの健康問題は経営や資金繰りに直結しやすく、事業継続の大きな経営リスクになっている。

要因別 「死亡」と「体調不良」で8割以上

 『後継者難』倒産の要因別では、最多が代表者の「死亡」の168件(前年度比18.3%増、構成比47.4%)で、ほぼ半数を占めた。
 次いで、「体調不良」が127件(同16.5%増、同35.8%)と続く。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」の合計は295件(前年度251件)で、『後継者難』倒産に占める構成比は83.3%(同78.6%)と、8割を超えた。
 中小企業では代表者の高齢化が進んでおり、事業承継や後継者の育成が重要課題に浮上している。

後継者難1

産業別 最多が建設業の75件

 10産業のうち、「情報通信業」「サービス業他」を除く8産業で、前年度を上回った。
 最多は、「建設業」の75件(前年度比15.3%増)だった。次いで、「サービス業他」が74件(同1.3%減)、「卸売業」が60件(同11.1%増)、「製造業」が58件(前年度比23.4%増)、「小売業」が39件(同5.4%増)の順。
 業種別(件数10件以上)では、繊維・衣服等卸売業14件(前年度比133.3%増)、機械器具小売業13件(同62.5%増)、飲食料品卸売業18件(同50.0%増)、飲食業25件(同8.6%増)などで増加した。

形態別 9割以上が破産

 形態別では、最多は破産の324件(前年度比13.2%増)で、3年連続で前年度を上回り、調査を開始した2013年度以降で最多を記録した。『後継者難』倒産に占める構成比は91.5%で、前年度(89.6%)を1.9ポイント上回り、9割を超えた。
 また、特別清算が10件(同42.8%増)で、2年ぶりに増加した。
 消滅型の破産と特別清算の合計は334件(同13.9%増)で、構成比は94.3%(前年度91.8%)に達し、『後継者難』倒産の大半を占めた。
 一方、再建型の民事再生法は1件(前年度4件)で、2018年度と同件数だった。会社更生法は、大型倒産などが主体になるため、『後継者難』倒産では調査を開始以来、発生がない。
 後継者不在の企業ほど、経営再建が難しく、消滅型の破産を選択するケースが多いようだ。

後継者難2

資本金別 1千万円未満が5割超

 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が195件(前年度比4.2%増、前年度187件)で、4年連続で前年度を上回った。
 『後継者難』倒産に占める構成比は55.0%(前年度58.6%)で、前年度より3.6ポイント低下したが、4年連続で構成比が50%を超えた。
 1千万円未満の内訳は、「1百万円以上5百万円未満」が95件(前年度比8.6%減、構成比26.8%)、「5百万円以上1千万円未満」が55件(同19.5%増、同15.5%)、「個人企業他」が35件(同20.6%増、同9.8%)、「1百万円未満」が10件(同25.0%増、同2.8%)だった。
 そのほか、「1千万円以上5千万円未満」が146件(同14.9%増、同41.2%)で最も多く、3年連続で前年度を上回った。『後継者不在』の企業は業歴も長く、旧会社法での最低資本金制度のもとで設立された企業が多いため。
 「5千万円以上1億円未満」が12件(同140.0%増、同3.3%)で、2年連続で増加した。
 「1億円以上」は1件(同ゼロ)で、2年ぶりに発生した。

© 株式会社東京商工リサーチ