バイデン大統領のインフラ投資案は予想外に小型化、株価への影響は?

バイデン大統領は3月31日に「アメリカンジョブズプラン」という総額2兆ドルあまりのインフラ投資計画を発表しました。期間は8年間としています。

今回は、政策の主な内容について解説します。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


2兆ドルだが公約の4年ではなく8年

アメリカンジョブズプランの主な内容は以下です。

・高速道路、鉄道、電気自動車、空港整…6,210億ドル
・飲料水、通信網、送電、住宅支援…6,500億ドル
・製造業支…3,000億ドル
・研究開発、人材支…2,800億ドル
・医療・福祉強…4,000億ドル

環境関連として盛り込まれたのは電気自動車支援1,740億ドルなどで割合は大きくなく、民主党の一部議員が主張していたグリーンニューディールと言われるような大規模な環境投資は含まれませんでした。一方、財源として21%の法人税を28%に引き上げることなどで15年間かけて費用を賄うとしています。

最も目を引くのは8年間という期間です。これまで、バイデン大統領は立候補時から一貫して2兆ドルのインフラ投資計画を主張してきましたが、期間は4年が想定されていました。これが8年間になったことで、単年度の追加的な支出押し上げ効果は半減します。

一方、法人増税幅は変わりませんでしたので、当初の公約と比べると歳出が減ったにもかかわらず歳入が変わらず、緊縮的な印象となっています。そもそも対名目GDP比で1%程度のインフラ投資は本予算に毎回組み込まれているほか、医療・福祉強化が果たしてインフラ投資に当たるかも含め、純粋な意味で景気対策と言えるかどうかも疑問です。

今回の政策はあくまでも第一弾で、第二弾は4月中に発表されると言われています。しかし、第二弾は医療改革や子育て、教育支援に重点を置く(財源は富裕層増税)と言われており、大規模なインフラ投資は含まれません。先月成立したアメリカンレスキュープランは1.9兆ドルが縮小することなくそのまま成立するサプライズとなりましたが、今回のアメリカンジョブプランは発表当初から規模が小さいという別のサプライズとなりました。

製造業支援が株式市場の追い風に

株式市場は今回の発表を受けてもほとんど反応しませんでした。そもそもインフラ投資で恩恵を受けるのは中小の建設、不動産会社をはじめとした非上場企業が中心で、ハイテクやグローバル企業の多い上場大企業の業績に与える影響は大きくありません。バイデン政権による財政政策の大型化観測によって米金利は年初から上昇を続けハイテク株などの重しとなっていましたが、インフラ投資の規模縮小によって金利上昇が落ち着けばむしろ株式市場にとってポジティブとも言えます。

また、内訳でも株式市場に恩恵が小さい環境関連ではなく、製造業支援に3,000億ドルという巨額の予算がついており、技術覇権を巡って中国と競争を繰り広げている半導体関連企業には強い追い風となりそうです。

今後の注目点は民主党内の調整に移ります。民主党左派の代表格であるオカシオコルテス下院議員はこのインフラ投資計画を「とうてい十分ではない」と批判しています。また、一部の民主党議員は法人税を28%ではなく25%への引き上げにとどめるよう主張しています。

アメリカンジョブズプランもすでに成立したアメリカンレスキュープランと同様に、上院において単純過半数で法案を可決させる財政調整措置を用いて実施されるため、共和党の意見は反映されません。そのため、与野党の攻防よりも民主党内部の調整に目を向ける必要があります。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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